新任経営者は企業の含み損を一掃し、その後の業績回復を図るために利益を減らす動機を持つと言われる。本年度は、就任初年度の新任経営者による利益マネジメントについて分析を行った。具体的には、新任経営者が利益減少型の利益マネジメントを行ったか否か、当該行動は経営者交代のタイプ(経常的交代と強制的交代)や新任経営者の出身(内部出身と外部出身)に影響を受けるか否か、また当該行動が実際に将来利益を改善させたか否かを検証した。なお、利益マネジメントの代理変数として、会計上の利益マネジメントを包括的に捉える裁量的会計発生高に焦点を当てた。 分析の結果、経営者交代が業績悪化時に生じやすいこと、強制的交代時において新任経営者が利益減少型の利益マネジメントを行ったことが示唆された。この結果は、強制的交代時に新任経営者がビッグ・バス(業績悪化時における利益減少型の利益マネジメント)を実施したことと整合的である。また、新任経営者による利益減少型の利益マネジメン卜は将来利益を改善させるが、その効果は一時的な可能性があることも示唆された。本研究の意義は、新任経営者による裁量的会計発生高を用いた利益減少型の利益マネジメントが将来利益にプラスの影響を与えることを明らかにしたことである。このことは、利益を増やす(減らす)と次期以降にその分だけ利益が増える(減る)という裁量的会計発生高の反転に関する今後の研究に多大な示唆を与えるものである。 本研究の成果は、「第1回東北大学大学院会計研究会」(東北大学)で報告した。また得られた成果を取りまとめた論文は「経営者交代と利益マネジメント-新任経営者のビッグ・バスに関する実証分析-」というタイトルで『証券アナリストジャーナル』(日本証券アナリスト協会)に掲載された。
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