研究課題/領域番号 |
23830062
|
研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
下司 優里 東日本国際大学, 福祉環境学部, 講師 (40615738)
|
キーワード | ソーシャル・インクルージョン / 知的障害 / 障害者処遇 / 国際情報交換 / カナダ |
研究概要 |
本研究は、世界に先駆けてインクルーシブ社会の推進を掲げたカナダが、「人間の『差異』をどう扱うか」というインクルーシブ社会で最大のタスクを、社会不適応の典型である知的障害に対して、どのように達成しようとしてきたのかを解明することにより、日本におけるインクルーシブ社会の実現へ向けた課題と方法について示唆を得ることを目的とする2か年の研究である。研究の初年度である平成23年度には、次の作業を実施し成果を得た。 1.カナダ・オンタリオ州において、先行研究の検討により抽出された、知的障害問題に関する団体、研究機関および行政機関等の史資料の所蔵調査ならびに収集を行った。2.オンタリオ州に焦点を当てて、第二次世界大戦前に施設への隔離保護から地域における受容へと知的障害者の処遇の転換を指向した経緯:と背景を究明した。1920年代から30年代の同州では、精神衛生や優生学の関係者によって断種こそが「精神欠陥」者の増加を防止し社会問題を解決する一手段であると強く主張される一方で、公衆衛生協会等では知的障害者を社会的脅威とすることに懐疑的な発言も見られるなど、知的障害者をめぐり様々の主張が存在していた。同州立施設長は、知的障害者の脅威論と彼らへの断種の実施に対して不支持の立場をとり、知的障害者の施設収容の限界と社会的包括の必要性、さらに入所者が施設外で生活することについて訓練の有効性と経済的効率性を指摘し、自身の在職中にコミュニティ復帰策を実行したのであった。 現在日本が批准を目指す障害者権利条約は、人々がもつあらゆる差異(障害)への合理的配慮と共生社会の実現を基本理念とする。世界に先駆けて障害者の平等な権利の保障に取り組んできたカナダの歴史的萌芽と発展過程を解明することは、今後の日本にとって重要かつ不可欠な研究課題であるといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度である平成23年度は、主として(1)先行研究の検討、(2)資料の収集、(3)資料の分析・整理、(4)研究討議の4つの基礎的作業を実施することを計画した。(1)および(4)については、学会発表ならびに先行研究者との討議を通して研究方法の妥当性と進捗状況の検証を行い、.計画以上の進展が見られた。(2)については、時間的制約により予定していた2回の資料収集が1回しか実施できず、平成24年度への持越しとなった。そのため、(3)の資料整理の進展にも影響が出ているが、国内で入手できる資料について優先的に作業を進めており、全体として計画の遅れはない。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、前年度からの持越し課題となった海外資料収集(イギリス・ロンドン市)を行う。なお本研究を継続実施する過程で、課題を明らかにしうる適当な資料が存在しない、あるいは収集が困難な場合が予想される。また本研究は、古書や貴重書、個人情報を含む記録を扱う機会も多い。こうした資料は、電子化作業や資料保存、個人情報保護の観点から閲覧が制約されることもある。これらの問題が発生した場合には、想定した資料に固執せず、研究代表者のこれまでの研究の蓄積を生かした新たな課題を設定するとともに、すでに部分的に入手している一次資料を用いて研究を進めることが可能であると考える。また、研究代表者が過去の現地調査により培った調査能力、および関係専門家との人脈を生かし、訪問またはメールによって資料収集および研究遂行についての適切な助言を得る用意がある。また分析および読解の終了した資料については、随時、学会発表または雑誌論文等に投稿し、研究成果を発信するとともにその研究史的意義を検討していく。
|