研究課題/領域番号 |
23830072
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
大沼 雅也 成蹊大学, 経済学部, 助教 (30609946)
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キーワード | 経営学 / 技術経営 / 経営戦略 / イノベーション / 普及 |
研究概要 |
本研究の目的は、ユーザー自らがイノベーションを起こし、それが企業によって製品化され、普及する背後のメカニズムについて、理論と実証(事例研究)の両面から探求することにある。我々の生活を支える一部の製品に関しては、必ずしも企業が技術開発を主導しているのではなく、ユーザーがその中軸を担うことがある。しかしながら、企業との相互の関わり合いの中で、ユーザーがどのように製品開発に関与し、またそうして生み出された製品がどのようにして社会に普及していくのか、という問題に対しては、既存のイノベーション研究が十分な理解を提供してくれるわけではない。ユーザーがイノベーションに積極的に関わり合うことを論じた諸研究は、ユーザーの役割に注目するがゆえに、当該イノベーションの発生・普及において、企業行動および企業間競争がいかなる影響を与えるのか、という点については十分な考察をしてきたわけではないからである。 こうした問題意識に基づき、本研究は、ユーザーイノベーションの発生・普及に対して企業の戦略的行動がいかなる影響を与えうるのかについて、ヘリカルCTと呼ばれる医療機器の開発および普及に関する事例を基に検討してきた。具体的に本年度に進められた作業は(1)企業の技術戦略を扱ったイノベーション研究に関する文献調査、(2)ヘリカルCTとよばれるX線CTに関する事例調査である。(1)についてはその成果を1本のレビュー論文にまとめた。また、(2)に関しては、医学研究論文に掲載された質的データの収集・整理ならびにX線CTに関する普及データの収集・整理が具体的に進められた。前者については1980年代から1990年代中頃まで、後者については1980年代後半までについて、データの収集・整理を終えた。こうした本年度の(1)および(2)に関する成果は、次年度の研究に向けた布石となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論面での検討については、当初の目標であった査読付き雑誌の投稿までは進んでいないものの、そのベースとなる論文の執筆は終えており、もう少しの修正を加えるのみとなっていることから、比較的順調に作業は進展しているといえる。事例調査に関しては、先方の事情もあり、インタビュー調査を予定通りに実施することが出来なかった。ただし、その代わりに、アーカイバルデータの収集・分析を前倒しで進めており、全体的にはおおむね順調に研究を進められていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においても継続的に理論面・実証面の双方において作業を進める。次年度は本研究課題の最終年であることから、作業の成果を論文として積極的に公表するべく論文の執筆・投稿を進める。具体的には、ユーザーイノベーションに関する既存研究の問題点を整理し、ユーザーイノベーションの発生・普及に関する新たな説明枠組みの導出を中軸とする理論論文、さらにそうした理論面に加え事例分析の知見を踏まえた実証論文を作成する。それらの作業のために、引き続き文献調査を進めると共に、ヘリカルCTに関する事例調査を行う。そうした作業を進める上で、現時点で抱えている問題点としては、計画以上にデータの整理に時間がかかっていることがある。その対策として、予算に占める人件費の割合を増やし、作業補助のアルバイトを増員することを予定している。
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