本研究は、物体の定性的、定量的情報に対する左右大脳半球処理優位性が、異なる帯域の空間周波数情報の処理に基づくという仮説のもと実験を行なった。平成23年度に行なった実験によって、物体の定性的情報処理には高空間周波数情報が、一方、定量的情報処理には低空間周波数情報が重要であることが示唆された。そこで、同じ刺激、課題を用いて、Saneyoshi and Michimata (2009)で認められた定量的情報処理に対する右半球優位性が、低空間周波数情報の除去によって消失するかどうかを検討した。もし低空間周波数情報の除去によって定量的情報処理に対する右半球優位性が消失するならば、右半球処理優位性が低い空間周波数成分の処理に対して生じていることが、物体認識において認められる左右差の原因と仮定できる。Saneyoshi and Michimata (2009)で用いられた刺激に対して、低空間周波数情報を除去した刺激を作成して刺激セットに加え実験を行なった。その結果、周波数情報除去処理を行なっていない刺激、さらに高い周波数成分を除去した刺激において認められた右半球処理優位性が、低い空間周波数成分の除去により消失した。この結果はECVPにおいて発表された。また、実験で用いられた新奇物体を刺激とした課題遂行時の眼球運動についても測定を行なった。その結果、定性的情報処理が重要な場合には部品の結合部分や部品を特定するための線分の結合部位など小さな領域(高い空間周波数情報が重要)を注視し、定量的情報処理が重要な場合には全体的な領域(低い空間周波数情報が重要)を注視していることが認められた。この結果は、日本基礎心理学会第31回大会で発表された。さらに、エビングハウス錯視の錯視量の左右差について検討を行い、空間周波数情報処理との関連性を考察した。この結果は日本心理学会第71回大会で発表された。
|