本研究の目的は、国際金融情勢に大きな影響を受ける小国は金融危機時にいかなるプルーデンス政策(金融システム安定化政策)を実施すべきか、その政策設計の指針を示すことにあった。 当該目的に沿って、本年度は2008年に金融危機に至ったアイスランドの金融システムならびにプルーデンス政策の特徴を掘り下げた。さらに、プルーデンス政策に関する対外関係という視点から、金融危機時の預金凍結をめぐるアイスランド金融当局とイギリス金融当局との対立関係、ならびに金融危機時のノルディック諸国からの金融支援をめぐるアイスランド金融当局とスウェーデン金融当局の協力関係を掘り下げた。 そのうえで、北欧の小国であるアイスランドのプルーデンス政策とアジアの小国であるタイのプルーデンス政策の比較研究という視点から、両国が通貨金融危機に至るまでのプルーデンス政策の特徴の比較検討をおこなった。 具体的な研究成果としては、アイスランドの金融システムとプルーデンス政策の特徴について、危機後にアイスランド金融当局によって実施された調査報告書(一次資料)をアイスランド人の共同研究者の支援を受けながら丹念に読み解いた。その結果、これまでの筆者の研究で明らかにしたタイにおけるプルーデンス政策の特徴との類似性および差異性が浮き彫りとなった。 また、アイスランドのプルーデンス政策の対外関係を掘り下げるなかで、アイスランドと欧州との関係の密接さがプルーデンス政策にも大きな影響を与えたことを見出した。それゆえ、小国のプルーデンス政策設計の指針としては、一国のみで最適な政策設計をめざすのではなく、経済関係の密接な周囲諸国との政策協調を重要視して政策設計を整備する必要があるとの結論に至った。
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