本研究では、これまで、自身の研究により明らかにしてきた「アメリカ人、韓国人と比べて、見知らぬ他者に肯定的態度を持たず、関わりを持たない日本人」について、なぜそのような文化差が見られるのかを検討することを目的としている。人々のつながりが社会の潤滑油となると主張する社会関係資本論では、従来、個人主義的な文化のほうが、人々が見知らぬ人も含めた一般的他者をより信頼し、より多くの社会関係資本を持つとされてきたが、この日韓米の文化差については説明することが難しい。そこで、本研究では、日本人のネットワーク構造が、家族、友人、職場といった領域を横断するつながりがない、境界密度(boundary density)が低いネットワークであることが原因ではないか、との仮説を立て、検討した。 昨年度、日本国内で25歳~59歳の男女計678名を対象に行ったインターネット調査では、仮説通り、異なる領域の知人同士につながりのない境界密度が低いネットワークを持つ人ほど、一般的信頼が低いことが分かった。そこで、今年度は、アメリカ人600名、韓国人400名を対象に、厳密に翻訳した比較可能なインターネット調査を行い、予測された文化差が見られるかどうかを検討した。その結果、予測通り、日本人に比べて、アメリカ人、韓国人の一般的信頼は高く、同時にネットワークサイズが大きく、境界密度が高かった。また、一般的信頼における文化差が、ネットワークの構造の違いから生じているものかどうかを検討するため媒介分析を行ったところ、ネットワークサイズ、境界密度の違いが文化差の一部を媒介していることが分かった。この結果は、日本人の一般的信頼がアメリカ人だけでなく韓国人に比べても低いのはなぜかについて、1つの解釈を与えるものである。
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