研究課題
本研究においては、移住と移住に付随する所得移転がもたらした分配的影響の変化について、インドの大規模家計データであるNational Sample Surveyを用い、インド経済の転換点である90年代、2000年代のデータを比較することにより、実証分析を行った。とりわけ、経済成長期には、より社会的・経済的に恵まれた階層がより多くの利益を得やすくなるため、そうした層の人的・経済的な上方流動性が強化される一方で、貧困層の経済機会に対するアクセスは相対的に不利になる。さらに、インドでは、特有の階層的社会制度のためにそうした不平等化が過大になる懸念が生じている。そこで、本研究では、経済成長期における貧困層の人的・経済的流動性の変化を明らかにするために、インド全体の貧困層を対象とし、なおかつ、かつて最貧州と呼ばれ、いまだに経済が低水準にありながらも、2000年代後半に極めて高い経済成長率を記録したビハール州において、ダリット(Dalit。Scheduled Castesとも)と呼ばれる、苛烈な社会的差別に直面している被差別階層に着目した分析を、1993年と2007-08年度のデータを用いて行った。その結果として、90年代においては、移住家計と移住者のいない家計の間には有意な差異はみられなかったが、2000年代においては、社会的後進家計が送金を受け取っている場合、貧困家庭においてすら、経済水準は顕著な改善を示した。移住機会や送金が、直近の経済成長によって社会的・経済的に最も不利益な扱いを受けている階層に対して開かれたたことにより、貧困地域の最後進層にとってきわめて重要な貧困の緩和手段となりつつあると考えられる。さらに、社会的後進性は、そのまま「より安い労働力」と認識されるため、成長市場の低賃金労働力への選好から、差別という社会的後進性という属性が市場的価値を持ちつつある点も示唆された。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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経済科学
巻: 60-2 ページ: 45-63
Economic Research Center, Graduate School of Economics, Nagoya University, Discussion Paper Series, No. 187, July, 2012
巻: 187 ページ: 1-30