本研究は、1980年代以降、急速な経済成長とグローバリゼーションの進展に直面したインドにおいて、経済的変化を背景としてその人口動態がどのように変化し、人口移動に付随する所得移転(送金)が、固有の社会的な階層構造を背景とした家計にとっていかなる影響を与えたか、という点について、多時点の大規模なミクロ家計データ(NSSDATA)を用いた分析を行った。さらに、固有の社会的階層構造に着目し、送金が社会的後進家計に与えた影響を分析し、全インドのみならず、2000年代に入ってからの経済成長率はめざましいものの、インドで最も州内総生産(GrossStateDomesticProduct)が低く、多くの貧困層とダリット(Dalits)と言われる被差別階層を抱えるビハール州を対象とし、1993年度のデータと2007-08年のデータを用いた比較検討を行った。結果として、1993年には移住や送金の有無による所得改善効果は認められなかったが、2007-08年では、大きな改善効果が認められ、とりわけ、その効果が被差別階層において大きい点が認められた。つまり、所得移転や直近のインドの成長が、後進階層にとって一定のエンパワーメント効果を与えた点は認められるものの、最貧困家計が、いまだにそのような恩恵から阻害されているということを示した。
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