我々は日常生活において,車の運転など数時間以上連続する認知課題を行うことが多い。しかし実際,そのような場面での課題遂行成績は,時間経過に伴って低下する(ヴィジランスの低下)。現段階で,ヴィジランスの低下は不可避な現象とされているが,私はヴィジランスの低下は阻止することが可能な現象として再考されるべきであると考えた。本研究課題では,「ヴィジランスの低下は認知システムの馴化によって生じる」という新たな仮説を立て,(1)ヴィジランスの低下を阻止する手法を基礎的実験において確立し,(2)得られた知見を応用的場面(特に車の運転場面)へ展開することを目指した。 本年度は,前年度に確立した手法に基づいて実験を行った。1つめの研究として,ヴィジランス課題中に認知システムの馴化を防ぐための,第二課題の頻度を操作した。その結果,ヴィジランス課題に対して第二課題の出現頻度が低いことが,認知システムの馴化を防ぐための重要な要因であることがわかった。2つめの研究として,被験者の情動を喚起させる刺激が認知システムの馴化を防ぐために有効であるかを検討した。その結果,ヴィジランス課題中に情動刺激が呈示されると,ヴィジランスの低下は防止されることがわかった。ヴィジランス課題中に課題とは関係の無い刺激を呈示するだけで,注意が持続することを明らかにした本年度の成果は,馴化モデルの応用可能性を示している。これらの成果は日本国内の様々な研究会や書籍において発表された。
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