2011年度から、「顕示選好理論による所得効果の推定」をテーマとして研究を遂行してきた。その第一の目的は、理論経済学/応用経済学、あるいは実証研究においてもしばしば用いられる需要の所得単調性の仮定について、実際に観察された価格・消費データから妥当性を検証する方法論を与えることである。したがって、当該年度もっとも重視したことは: 1.有限個の価格・消費データが与えられたとき、それが所得単調な需要行動とconsistentであるための必要十分条件を導出すること.である。昨年度内に得られた結果として、2財モデルにおいて上の条件を導出することに成功した。特に、それがデータから容易に構築される線形不等式系の可解性を持って特徴づけられることが示された。もちろん、2財モデルの仮定は制約的であるが、特定の財の需要行動にのみ注目する際にはしばしば用いられるフレームワークである。また、線形不等式については数学的に極めて多くの成果が知られており、それらを適切に応用することで一般のケースへの拡張可能性が期待されると言える。 また、1.の結果を応用して、次についても導出することに成功した: 2.有限個の価格・消費データを基にして、所与の価格・所得の下で理論上許容されうる需要行動のbound(簡単に言えば、需要の予測範囲)の推定方法. 特に、1.に関する結果から推察されるように、2.における需要のboundは特定の線形不等式系の解集合として特徴づけられることが判明した。このことは、本研究で得られた理論が実証研究に容易に応用可能であることを示している。 現在、これらについてworking paperとしてまとめているところであり、近々に公開する予定である。特に今年度6月に開催される日本経済学会春季大会およびQueenslandにて開催される12th SAET conferenceにおいて報告される予定である。
|