本研究では、顕示選好理論の方法を通じて、消費者需要の所得単調性について検証する方法の構築を試みた。消費者需要の所得単調性とは、所与の価格の下で、消費者の各財・サービスに対する需要量が単調非減少的となることであり、特に応用経済学の場面では頻繁に課される仮定である。本研究では、特に有限個の価格・消費データから実行可能なテストの構築を主要な目的とした。 結果として、応用上しばしば用いられる2財モデルの範疇で、有限個の価格・消費データが所得単調的な需要行動と無矛盾であるための必要十分条件の導出に成功した。特に構成的な証明法を採ることにより、需要の所得単調性の下では効用関数(消費者の嗜好を表現する関数)について、その凹かつ優モジュラ性が有限データからは反証し得ないことを同時に示した。後者の性質は、需要の所得単調性を保証するために効用関数に課される最も基本的な十分条件として知られているものである。 また、上述の条件が、有限データと所得単調性の仮定のみで導出されうる最も精緻な需要予測の導出にも簡単に応用できることも併せて示した。所得単調性のテスト、ならびに需要予測の導出はいずれも極めて簡明な線形不等式系を解くことで実行可能である。 一般のn財モデルについても、2財モデルでの必要十分条件を適切に拡張することで、有限データと所得単調需要の整合性について、その必要条件については導出に成功している。
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