本研究は、境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder: BPD)とのその周辺群に特徴的であるとされる、「見捨てられスキーマ(見捨てられることに関する考え方の枠組み)」の変容を促す8週間の介入実験を行うことを目的とした。欧米においては、BPDに特徴的なスキーマを焦点とした研究が発展してきているが、本邦において、BPDの心理的支援に関する実証研究はほとんど見受けられない。本研究によって、BPD周辺群に対してスキーマへの介入が有効であることが示されれば、 BPD周辺群に対する効果的な介入法開発の足がかりとなり得る。 本研究は、大学生のBPD周辺群を対象とした介入実験を行った。スクリーニング調査を行い、見捨てられスキーマ得点およびBPD傾向の得点が平均点以上の者で、同意を得られた者を実験参加者とした。実験参加者はそれぞれ見捨てられスキーマ焦点群6名と、既存の認知行動療法の手法で介入を行うCBT群6名、待機(Waiting-List)群6名にランダムに割り振けた。実験参加者には、2週間毎に実験室に来室してもらい、効果指標(感情・認知指標、皮膚電位等)の測定を行った。 実験の結果、捨てられスキーマ焦点群は、CBT群およびWL群よりも、有意に見捨てられスキーマの得点が減少していた。また、見捨てられスキーマ焦点群は、CBT群およびWL群よりも、有意に対人関係スキルの得点が増加した。さらに、BPDに特徴的な行動化得点について、見捨てられスキーマ焦点群は、CBT群およびWL群よりも有意に得点が減少した。一方、皮膚電位の値、BPD傾向全体を測定する得点については、3群に有意な差は示されなかった。以上の結果から、見捨てられスキーマの変容に焦点をあてることが、BPDに特徴的な行動化や対人関係スキルの改善について効果があることが示された。
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