研究課題/領域番号 |
23830094
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
阿部 純一郎 椙山女学園大学, 文化情報学部, 講師 (40612916)
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キーワード | 観光/ツーリズム / ナショナリズム / 占領期 / GHQ / 観光政策 / 宣伝/プロパガンダ / 日本:アメリカ:ドイツ / 東アジア |
研究概要 |
本研究の目的は、第二次世界大戦をまたぐ1930年代から50年代の日本の観光事業体制を分析し、日本と米国・東アジア地域との観光ネットワークが戦後いかに継承・再編されたかを解明することにある。この目的を達成すべく、本年度は以下の二点の作業を実施した。 1.占領期日本の観光事業の方向性をめぐるGHQ・日本政府・観光事業者の交渉実態を解明するため、ESS文書内の観光・サービス課ファイル(1947-51)から入国管理・視察旅行・文化交流事業に関する文書、国会議事録(1947-65)からインバウンド・アウトバンド観光の推進、国内の観光開発・施設整備に関する文書を収集した。また補完資料として、ブランゲ文庫及び朝日新聞(1945-65)の新聞雑誌記事を収集した。本年度は資料整理に努め、今後の検討課題として、(1)47年以降の日米間の観光規制緩和をめぐる交渉実態の解明、(2)外客誘致・観光開発をめぐる省庁間の管轄権問題がポイントになるという認識を得た。 2.占領期日本の観光事業を帝国期との連続性の中で捉えるため、30-40年代に外客誘致・海外宣伝事業を担っていた鉄道省系の観光機関(国際観光協会、ジャパン・ツーリスト・ビューロー)の報告書・機関誌を収集した(『国際観光』『旅』『ツーリスト』等)。また同時期に海外宣伝業務を担った国際文化振興会の報告書と機関誌『国際文化』も併せて収集した。本年度は鉄道省系の資料整理を優先し、30年代と50年代の観光事業は、(1)米国人を中心とするインバウンド観光を重視した点、(2)観光事業をめぐる省庁間の管轄権問題が重要なイシューであった点で、戦争を貫く連続性があることが確認された。またこの点を、30年代以降日本が観光政策のモデルにしていたナチス・ドイツの事業体制と比較した結果、特に(2)は日本の行政機構に起因する問題であることが明らかにされた。なお、ファシズム期の日独の観光事業体制の比較に関しては、本年度に研究発表を行ない、その後論文として投稿した(来年度掲載予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題である資料収集は概ね完成し、すでに整理・分析作業に入り始めている。またその過程で、1930年代の日本の観光事業体制をドイツと比較した研究発表・論文投稿を行ない、今後の検討課題を明らかにすることができた。ただし占領期の資料について、「新日本観光地百選」事業を後援した文部省・厚生省・運輸省の関係文書の所在が掴めず、資料収集が進んでいない。また英文の日本案内書・海外宣伝グラフ誌の収集も、当初予定していた資料の所在がつかめず、また存在しても本年度の予算の関係から入手できなかったものが一部ある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度収集した資料の本格的な分析に入る。占領期の観光事業を日米関係の変容と関連づけて捉えるため、以下の3点に絞って1930年代と50年代の比較検討を行なう。(1)占領下の国際観光をめぐるGRQ・日本政府・日本交通公社の意図と交渉過程の分析、(2)在米日系人の訪日観光団の特徴の変化、(3)戦前日本のナショナリズムと強く結びついていた観光地(宮崎・広島等)の戦後の再編過程の分析。なお、上記の未収集資料は今後もサーベイを続けていく。
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