研究期間の最終年度となる今年度は,主として3つの作業を行なった。 第1の作業は,研究代表者がこれまで行なってきた研究成果の意義を,学会等を通じて広く研究者に公表することである。研究代表者のこれまでの研究成果は,『著作権法改正の政治学』(木鐸社,2011年)として刊行されたが,同書の存在が政治学・行政学および知的財産法の研究者に十分に周知されていない可能性があり,その意義についても,学会での討論を通じてよりよく理解されると思われた。そこで,著作権法学会の研究大会のシンポジウムにおいて,知的財産法の研究者および実務家を対象とした報告および質疑応答を行った。また,日本行政学会の研究会の分科会においては,方法論に焦点を絞った報告を行った。この作業の本研究課題との直接的な関係は薄いが,本研究課題のもつ意義の周知および多国間比較分析に向けた足場固めという点で,間接的に役立ったといえる。 第2に,アメリカの私的録音補償金制度に関する政策過程の分析である。その研究成果は,「アメリカにおける私的録音補償金制度の形成過程」(研究ノート)として公開した。多国間比較分析の一部を構成する単独事例の分析からは,裁判所の判断のもたらした影響,利益団体間の交渉と妥協,および,専門性の高い官僚集団たる著作権局の果たした役割が重要であったことが明らかになった。 第3に,私的録音録画補償金制度に関する多国間比較分析に向けた準備作業である。今年度はイギリスおよびドイツの私的録音録画補償金制度に関する一時資料の収集と分析を行なった。国立国会図書館等での資料収集のほか,8月にはロンドンの大英図書館およびフランクフルト・アム・マインのドイツ国立図書館にて追加的に資料調査を行った。その成果の公開はアメリカに関する分析が予定よりも大幅に遅れて年度末に間に合わせることができなかったが,早期の公開を予定している。
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