本年度は、(1)「心理学化」の議論について、法学・臨床社会学・臨床心理学等における先行研究の理論的含意を踏まえ、法制度構造内部における「心理学化」の意義・問題点を検討するとともに、(2)法律相談等の法実践過程において臨床心理学的手法を用いる弁護士・司法書士を対象としたインタビュー調査(昨年度実施)の分析を行った。 (1)先行研究の検討からは、「心理学化」の議論で指摘されている「社会的契機の喪失」という批判が、法的場面においては法的言語化という法特有の(公的)作業によって免れうると想定されていること、法実践の場面においてもそうした想定が働いていることが明らかとなった。方法論に関しては、「臨床心理学的法実践」を法社会学的に検討するための再帰的検証に関する十全な蓄積がないこと、すなわち、法のインパクトに関する経験的研究は豊富にあるが、法理論知のインパクトに関する経験的研究はほぼ皆無であることから、新たな分析枠組が必要であることが明らかとなった。 (2)ヒアリング分析からは、法の心理学化の一形態であると考えられる「リーガル・カウンセリング」の概念自体が法実践の過程で変容・多義化していること、その概念の多様性は、「ニーズ発見」「生活改善」「紛争当事者双方の納得・満足」「相談者対応」という概ね4つの思念形態のもとで拡散していると考えられること、こうした拡散は、法的助言の実質的内容に影響を与える以前に、法的行為の進め方(手続的関わり)に影響を与えていることが明らかとなった。
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