研究課題
本研究の目的は,表情筋の操作(口角を上げるなど)によって,対象への印象などが左右される「顔面フィードバック」という現象の認知生理的メカニズムを明らかにすることである.中心的な方法として,①表情筋の操作(無意識的な感情制御)と,比較のための②意識的な感情制御の二種類の実験的操作が,意思決定に正負の報酬が伴うギャンブル課題を行なっている際の生理指標や行動指標にどのような影響をおよぼすかを検討した.具体的な指標としては,脳活動(報酬に対する脳波上の電位変化:ERP)と心拍活動の変動,および,課題中のリスク選択の割合を計測・比較した.報告時点で,両実験のデータ数が10数例である.確定的な結果ではないが,およそ以下のことが明らかになっている.①表情筋の操作:脳活動(ERP)については,表情筋の操作によって,報酬の認識後 200~300ミリ秒の比較的速い潜時で出現するフィードバック電位(FRN)の振幅が有意に変動していた.課題中の心拍数変動(HRV) は,表情筋の操作を行った条件で有意に低下していた,リスク選択の割合は,広角を上げたときに,損失を被った直後の状況で,広角を上げた時に有意に上昇していた.②教示による意図的な感情制御の操作:ERPに及ぼす影響は,早い潜時のFRNには現れず,より遅い潜時で出現し,覚醒度の指標として知られるP300電位が,意図的な感情抑制条件で有意な低下を示した.一方で,心拍数変動には,条件間の違いが見られなかった.リスク選択の割合は,感情抑制で低下し,感情増強条件で増加していた.これらの結果をまとめると,表情筋の操作は,意図的な感情制御に比べて,より早い神経活動と明確な自律神経系への影響を及ぼし,より深い水準での心身の態度に影響を及ぼしていることが示唆された.表情筋の操作が,感情制御の一形態として,潜在的認知に影響をおよぼすことが示唆された.
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Human Brain Mapping
巻: 34(3) ページ: 598-612
doi: 10.1002/hbm.21458
Scientific Reports
巻: 3 ページ: 1342
10.1038/srep01342