研究課題/領域番号 |
23830113
|
研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
冨田 新 帝塚山大学, 経営学部, 講師 (50611810)
|
キーワード | 19世紀イギリス / 公益事業経営史 / インフラ |
研究概要 |
鉄道事業については、産業革命の末期に当たる1820年代中頃から本格的な発展を開始した。鉄道の発起・設立・建設・運営は、議会設立法に基づき民間資本がイニシアティブをとり、政府が関与することはほとんどなかった。鉄道会社の事業構造については、当初「オープン形態」が採用されていたが、1830年代以降、次第に「クローズド形態」の方向へと移行することとなった。この過程で、線路保有主体(=鉄道会社)と輸送主体(=輸送会社)との間には、輸送方法や料金設定などをめぐる問題を引き起こし、例えばグランド・ジャンクション鉄道とピックフォード社(陸運会社)との間で訴訟問題にまで発展した。こうして、鉄道の独占が問題となり、1840年代以降、鉄道事業に対する政府や議会の関与が次第に強化され、1844年に国有化条項を含む鉄道規制法が制定された。 電信事業については、鉄道事業と同様に民間資本により発起・設立・建設・運営されていた。当初は民間資本により多数の電信会社が設立されたが、1850年代に入ると3~5社に集約された。利用料金は高額に設定され、他の電信会社を経由するたびに料金は上乗せされていた。このため、利用者から一律料金制度の導入や電信国有化の請願が提出され、1868年に国有化法案が制定されることとなった。 このように、鉄道や電信事業は、民間資本のイニシアティブの下に発起・設立・建設・運営されたが、発展に伴い独占の問題が明らかとなり、政府・議会の関与が強化されることとなった。しかし、関与の手法や程度は異なり、電信事業は国有化され、一方鉄道事業は国有化されることなく規制により対応がなされた。つまり、政府・議会は、各事業が置かれた経営環境や事業の性格を前提として、それに適合的な政策を選択していたのである。したがって、各公益事業の経営発展および政府政策(政府や議会の関与)を個別に分析することが、極めて重要であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イギリスと東京において史資料の調査および収集を実施し、平成23年度に予定していた基礎的な史資料の収集についてはおおむね順調に行うことができた。一方、本研究は新たに開始した研究であり、収集した史資料(鉄道会社の取締役会議事録や株主総会議事録、報告書など多くは手書きである)の整理および分析に時間を要しているため、やや遅れて研究を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の前半は、前年度に収集した史資料の分析を鋭意進めることとする。また、本年7月7日には、鉄道史学会関東例会において報告を行う予定である。これまでの成果の報告を行い、広く指摘を受け、後半の研究に反映させることとする。さらに、夏季休業を利用して、本年度に予定している史資料(特に、鉄道会社と輸送業者との輸送をめぐる問題に関する訴訟関連史資料)の収集を行う予定である。 平成24年度の後半は、引き続き史資料の分析を進め、特に鉄道のインフラ整備・保有・運営形態とその変化要因について明らかにすることとする。この過程で、再度学会報告を行い、客観的な視点からの評価を受け適宜修正した上で、最終的には報告書にまとめることとする。
|