本研究では、中国における農民工子女の義務教育修了後の進路・キャリア選択に関する実態を明らかにするため、北京市において関連法規・資料・情報を収集するための現地調査を実施した。 農民工子女の教育については、すでに中央政府が2003年に暫定法を公布し、越境入学費の徴収を廃止するなどの優遇措置を講じていた。しかし、そうした優遇措置は義務教育段階に限定したものであるため、農民工子女が高校に進学するにあたっては、従来通り戸籍所在地にて就学することが原則とされていた。すなわち、中国の教育制度では、義務教育修了後に「中考(高校入学統一試験)」を受験しなければ、上級学校へ進学することができないシステムとなっており、それは戸籍所在地で受験しなければならないのである。 しかし、近年、教育機会の拡大という観点から、とりわけ内陸の地方中小都市において、当該地に流入した農民工子女にも受験資格を与えるといった「中考(高校入学統一試験)」の改革が試みられるようになってきていることが分かった。また、上海、天津など一部の大都市においても、進学先を職業高校に限定した形ではあるものの「中考(高校入学統一試験)」の制度改革が実施されはじめていることが確認された。 以上のように、近年における地方政府の「中考(高校入学統一試験)」の改革によって、農民工子女の後期中等教育段階へのアクセスの幅が拡大していることが明らかになった。今後、進学に際しては戸籍所在地へ帰る他なかった彼らの進路選択が、さらに多様化していくことが期待される。
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