研究概要 |
研究目的:究極の温室時代であった白亜紀の生命圏に関する研究は,現在世界的な注目を集めている.本研究で扱う絶滅頭足類ベレムナイトは,白亜紀当時の大型遊泳生物の中で最も敏感に地球環境変動に反応し,絶滅・適応放散を繰り返してきたグループである.本研究は,白亜紀最大の海洋でありながら研究の空白地帯となっていた太平洋におけるベレムナイトの分布変動を明らかにすることで,当時を代表する遊泳生物の進化史を理解し,真のグローバル生物イベントの提唱を目指す.本研究は,太平洋地域の前期白亜紀を対象とした広域的な野外調査と詳細な時間軸上での群集解析に立脚し,上述の目的を達成する具体的な課題として(1)北太平洋旋廻の成立過程とべレムナイト分布ダイナミクスの解明,(2)温暖期初期に発生したべレムナイト群集の全球的均一化現象の解明を設定している. 今年度の成果:調査地(フィリピン)の天候等の状況により23年度は上述した「研究課題(1)」に先行して「課題(2)」を達成した.関東,北海道,およびフィリピン各地のアプチアン~アルビアン階産標本を多数得た.これまでに採集したカリフォルニア産標本も扱い,同地域に関する層序学・古生物学的論文の執筆も行った.室内ではべレムナイト標本の切片を作成し,研磨した後,分類の基準となる形質の鏡下での観察・計測を行って種の同定を行った.その結果,全ての標本がNeohibolites属に分類できることがわかった.次に赤道-北太平洋のべレムナイト群集解析を行い,アプチアン~アルビアンにおいて赤道-北太平洋のべレムナイト群集はNeohibolitesに占有されることを明らかにした.文献調査の結果,このトレンドは欧州でも追跡できることが明らかになった.このグローバル・インベージョンとも言うべきNeohibolitesの分布拡大は,急激な温暖化の開始時期にほぼ一致することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天候による調査地(フィリピン)の入れ替えによって,研究課題(1)に先行して(2)を行ったが,計画通りのペースで研究を遂行することができた.研究課題(2)に関する標本調査,室内での分類学的検討を順調に終え,分布変動の分析と背後にある環境変動に関して詳細な検討を行った.論文執筆可能な結果を得ることができ,研究課題(2)はほぼ達成されたといえる.また,研究課題(1)の基礎をなす一部のバレミアン階産標本調査や北部カリフォルニアの下部白亜系に関する層序学・古生物学的論文の執筆・出版も行った.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,研究課題(1)の達成を日指す.具体的には,北太平洋各地域のバレミアン階より追加標本を得て,これに室内での分類学的検討を加える.同定したバレミアンの標本を用いて,同一時間面上で北東・北西・北部太平洋の群集構成を比較する.これらの結果をヨーロッパなどで知られるベレムナイトの分布変遷やその要因(Christensen,2002など),および北太平洋域での他の分類群の分布変遷と比較する.最後にバレミアンの北太平洋におけるベレムナイトの特異的分布の地史的背景や環境変動要因,さらには北太平洋旋廻の存在について議論する.
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