研究概要 |
研究目的:ベレムナイトは,白亜紀当時の大型遊泳生物の中で最も敏感に地球環境変動に反応し,絶滅・適応放散を繰り返してきた絶滅頭足類の一群である.本研究は,白亜紀最大の海洋でありながら研究の空白地帯となっていた太平洋におけるベレムナイトの分布変動を明らかにすることで, 当時を代表する遊泳生物の進化史を理解し,真のグローバル生物イベントの提唱を目指している.具体的な課題として,1.北太平洋旋廻の存在とベレムナイト分布ダイナミクスの解明,2.温暖期初期に発生したベレムナイト群集の全球的均一化現象の解明を設定している. 今年度の成果:昨年度の課題2に続き,今年度は課題1に取り組んだ.北太平洋において広域的な標本調査を行った.室内では,標本の切片を作製し,観察・計測を行って種の同定を行った.さらに同定した標本を用いて,バレミアン期の北東―北西太平洋間および北太平洋―地中海域―北部欧州間のベレムナイト群集構成の比較を行った.その結果,1)欧州と比較して,北太平洋のベレムナイト群集が極めて単純な群集構成であること,2)北西太平洋では,Belemnopseidae科のHibolithes属,北東太平洋ではCylindroteuthididae科のAcroteuthis属のそれぞれ1属のみで構成されており,北太平洋両岸で科・続レベルで群集構成が全く異なることが明確となった. Hibolithesは低緯度,Acroteuthisは高緯度域に特徴的に分布する属であることから,北太平洋東西両岸でのベレムナイトの特異的分布は,現在の北太平洋旋廻に比較されるような大規模な海流系が白亜紀当時も存在していた可能性を示している.上述の研究に加えて,研究課題1に関連した1)頭足類(アンモノイド)の生物地理,2)北太平洋の化石層序,3)ベレムナイトの起源と生物地理に関する論文の執筆も行った.
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