研究課題
スピン液体などの様々な興味深い量子多体現象が注目されている低次元量子スピン系の研究舞台は、これまではバルク試料が主流であった。本研究では、表面上に吸着させた磁性分子を構成要素とし、理想的な 低次元量子スピン系を走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてボトムアップ構築し、スピン偏極 STM による磁化測定、非弾性トンネル分光という測定手法を用いて、これまでバルク試料の3次元性に隠れて見えなかった基底状態の本質に迫ることが本研究の主な目的であった。本年度は、最終目的であるAg(111)表面上の吸着酸素分子のスピン偏極STMを行う上で、重要な参照試料となるコバルト(Co)ナノアイランドのスピン偏極STMの実験を主に行った。磁性探針には前年度に開発したクロムバルク探針を用いた。その結果、スピン偏極シグナルを明確に確認し、磁場依存のスピン偏極STM像を観察に成功した。さらに、その磁気コントラストの変化を磁場の関数でプロットすることで、Coナノアイランドの磁気ヒステリシス曲線を見積もることに成功した。その成果は、2013年の1月に行われた国際会議(Symposium on surface and nano science 2013)と日本物理学会第68回年次会において公表され、高い評価を得ており、現在論文投稿に向けて論文執筆中である。また、Ag(111)表面上でのAg単原子のマニピュレーションを成功させ、低温STMを用いたマニピュレーションの技術を確立した。この二つの主要な成果によって、ボトムアップ構築した低次元量子スピン系を調査する技術的な土台が整ったことになり、今後が期待される。また国内には、信頼できるスピン偏極STMの結果を安定に供給できるグループは無いので(国外でも数グループ)、本研究における成果は非常に意味深く、スピン偏極STMの拠点を国内に確立するための大きな一歩となった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Phys. Rev. Lett.
巻: 109 ページ: 116102
DOI:10.1103/PhysRevLett.109.116102
Phys. Rev. B
巻: 86 ページ: 134422
DOI:10.1103/PhysRevB.86.134422