研究課題/領域番号 |
23840011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 美加 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (00610867)
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キーワード | 物性実験 / 液体論 / 水 / 水和 / 電解質水溶液 / 光散乱 / 蛍光観察 |
研究概要 |
水は地球上において最も重要な物質のひとつであるが、氷への結晶化の際の体積膨脹など分子性液体としては極めて特異な性質を示す物質であり、また、通常の冷却方法でガラス状態を実現することは不可能とされている。ところが、このような特異性は、塩添加や圧力印可に強く依存し、これらの外的要因によって変化する構造要素が、水の特異性、さらには、ガラス転移の起源にせまる鍵を握っていると考えられる。本研究の目的は、上記の外的要因が液体の短・中距離構造に与える影響について定量的に調べ、水の特異性やガラス形成能の起源について統一的に理解することである。 本年度は、塩添加と圧力印可が等価であることから電解質水溶液を対象とした。電解質水溶液における中距離構造は、氷(六方晶)の結晶構造と一致する局所安定構造である「5つの水分子からなる四面体構造」と、電解質イオンを中心として形成される水和構造の2つである。そこで、塩化リチウム水溶液においてラマン散乱実験を行い、水の局所安定構造と水和構造の数密度の決定を試みた。水の局所安定構造に関連して、水分子が四面体構造を形成する度合いを反映する3200cm-1付近の水の伸縮振動モードの強度を詳細に観測した。一方、励起光強度の変化や、低温・長時間実験にともなう結露など、実験技術的要因による信号強度の変化と試料由来の強度変化を分けるための手段を検討した。そのほか、蛍光色素を用いた水和状態の観測システムの準備として、塩素イオン指示薬の温度依存性などの特性を調べ、定量観測の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラマン散乱の予備実験過程において、信号強度に経時変化が見られ、レーザー光源やラマン分光装置に不具合があるということが判明したため、当初の計画通りにいかない面もあったが、一方で、より正確な定量観測のための方法を検討することができた。また、蛍光試薬を用いた実験についても予備的な実験を行うことができ、定量観測を行うに際して検討すべきことがはっきりした。以上のことから、全体的にはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ラマン散乱の励起光源については、装置の不具合の修理・改善を速やかに行うとともに、励起光強度の変動に対応した観測手段を検討することとした。また、蛍光相関分光法など、蛍光試薬を用いた水和構造の観測システムの構築を段階を追って進める予定である。
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