研究概要 |
平成23年度は,特に高次元埋め込みについて,非自明な埋め込みを幾何学的に構成することや不変量の幾何学的な特徴づけ,さらには埋め込みの空間のコホモロジーを記述するモデルについて考察を進めた. (1)Haefligerによる(4k-1)次元球面の6k次元Euclid空間への埋め込みに関して,私は以前に配置空間積分による埋め込み不変量の記述を与えた.このことによりHaefligerの埋め込み不変量はVassiliev不変量との関わりを持つことが示唆される.現在進行中の研究では,Polyak-Viroによる1次元結び目に対するVassiliev不変量の組み合わせ的記述の高次元版を,配置空間積分と埋め込みの特異Seifert膜を使って証明したいと考えている.本文執筆時点では,1次元の場合に対応する部分は既に記述できており,高次元特有の部分が現れるか否かを検証中である. (2)Goodwillieによる関手の微積分の応用として,ファイバー空間による埋め込みの空間の「分解」が与えられ,その分解の各項はある種の同変写像の空間を使って記述される.私は同変写像の空間のホモトピー群に収束するスペクトル系列を使って,高次元埋め込みの空間の低次ホモトピー群の計算を試みている.現在はスペクトル系列のE2項を記述し,そこから読み取れる情報を考察している. (3)埋め込みの空間の有理コホモロジーはグラフコホモロジーにより与えられるが,グラフは低次元トポロジーの他分野,例えば写像類群のコホモロジーの記述にも表れる,巡回的オペラッドを軸としてこれらを統一的に扱う理論を使って,埋め込みの空間のコホモロジーを無限次元Lie環のコホモロジーとして表すことを試みている. (4)高次元埋め込みの空間の具体的なコホモロジー類で「非安定領域」に含まれるものを配置空間積分で表した論文(渡邉忠之氏との共著)が完成し,欧文学術雑誌に掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
今後もおおむね当初の計画を推し進めていきたいと考えているが,グラフと関わる低次元トポロジーの様々な話題との関連をより強く意識していく必要があると考えられる.巡回的オペラッドを軸として他の話題との関係を明らかにすることにより,埋め込みの空間と他の位相幾何的対象に共通する性質とそうでないものを明確に区別することができ,それぞれの分野における長期的な研究目標を定めることに役立つと考えられる.
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