私の過去の共同研究において、弦理論におけるエキゾチックブレーンの重要性が明らかとなった。弦理論には拡がりを持った励起である「ブレーン」が存在することがよく知られているが、私は、通常のブレーンが「スーパーチューブ効果」と呼ばれる自発的分極現象によってエキゾチックブレーンを生じ、それがブラックホールの微視的物理に本質的に重要である可能性を指摘した。 一般に、自発的分極現象によって生じたエキゾチックブレーンの配位は非幾何学的な性質を持ち、その記述にはdouble field theoryなどの新しい枠組みが必要になる。しかしながら、H23年度における研究において私は、自発的分極現象によって幾何学的な配位が生じる特別な場合もあることを明らかにした。 ブラックホールの一般の微視的状態の理解には非幾何学的な配位が本質的に重要であると考えられるが、その取り扱いは難しい。したがって、まずは取り扱いが比較的容易である幾何学的な配位の性質を明らかにし、それに基づいて非幾何学的な配位の研究に進むのが良い戦略である。ゆえに、H23年度において私は、自発的分極現象によって生じる幾何学的な配位を集中して調べた。 まず私は、そのような幾何学的配位への自発的分極現象が原理的に起こり得ることを、超対称性を解析することによって示した。次のステップは、幾何学的配位を具体的に超対称重力理論の解として構成し、そのような自発的分極現象が実際に起こることを示すということである。そのために私は、6次元超対称重力理論の方程式を、それが持つ線形構造が明らかになるように書き直した。これにより、幾何学的配位を具体的に構成するための道筋をつけた。そしてさらに、実際にその方程式の簡単な解を書き下した。これはまだ予想される一般の幾何学的配位ではないものの、一般の幾何学的配位、さらには非幾何学的配位を見つけるための基礎となる重要な進展である。
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