研究概要 |
本研究の目的は, 「差集合族」と呼ばれる組合せ構造の拡張概念を利用したアダマール行列の新たな構成法を提案することであった. 本年度の研究では, 差集合族と呼ばれる組合せ構造およびその一般化した構造を標数が2の冪のガロア環から構成することを試みた. これは先行研究において, 有限体でなされていた研究のガロア環での類似問題といえる. 研究実施計画に基づき, 研究当初に既に得られていたSzekeresの差集合族の構成法の一般化を, Yamada (2012)の標数2の冪のガロア環上の差集合に適用した場合, どのような組合せ構造が得られるかを計算機を援用し調べた. 標数が4の場合には, 新たなパラメータを持つグループ分割型差集合族の無限系列の存在を証明し, 新たなアダマール行列の構成法を提示できた. しかし, より高い標数においては, いくつか興味深い例が計算機によって発見されたものの一般的な証明はできなかった. この部分の結果については, 金沢大学の山田美枝子とともに論文を執筆し, 国際学術誌へ投稿した. このように, 「差集合およびアダマール行列の新たな構成法を提示する」という研究目標は部分的には達成されたが, より高い標数で例を一般化するという問題点が残された. 関連する研究として, アダマール行列の構成問題と密接な関係を持つ強正則グラフと呼ばれる組合せ構造について研究を行った. 特に有限体の相対ガウス和と呼ばれる指標和の計算を行い, 有限体上の強正則グラフの新たな構成法を提案した. 特に, 条件を満たす良い強正則グラフが一つあればそこから無限系列が得られるという再帰的構成法を与えることに成功した. この結果は整数論と組合せ論を結ぶ興味深い結果であると言える. この結果は, European Journal of Combinatoricsという国際学術誌に掲載された.
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