研究概要 |
本課題では,放射光や先端的なレーザー光源を用いた光電子分光法を用いることで,量子臨界現象や新奇な超伝導を示す重い電子系イッテルビウム化合物の特異な物性について,電子構造の直接観測という観点から解明を試みる.具体的には,イッテルビウム化合物で初めて重い電子系超伝導が報告され,かつ圧力・磁場という非熱的外部パラメータを導入せずに基底状態が量子臨界点にあるβ-YbA1B_{4}及びその関連物質であるα-YbA1_{1-x}Fe_{x}B_{4}に着目して研究を進めている.光電子分光は超高真空中で清浄な試料表面を得ることが不可欠であるが,β-YbA1B_{4}はその試料形状(c軸方向の厚みが10マイクロメートル程度)により壁開に相当の工夫を要する.また,重い電子系は一般に酸化膜形成などで清浄表面を長時間保つことが難しく,測定槽内の真空度の制御及び測定時間の短縮も重要である.本年度は,このような問題を排除するために,バルク測定のための実験条件の最適化を主に行った.その結果,β-YbA1B_{4}の壁開表面を得ることに成功し,フェルミ準位近傍に近藤ピークに対応するYb 4f^{13}終状態(J=7/2)が明瞭に観測された.これは,f電子がフェルミ準位における電子状態密度に寄与していることを直接的に示しており,電子比熱係数や量子振動実験から示唆される電子有効質量の増大や,以前に我々が硬X光電子分光によるYb 3d内殻準位の測定で明らかにしたβ-YbA1B_{4}の強い価数揺動状態とコンシステントな結果である.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度頓挫した硬X線光電子分光実験は,新たに別のSPring-8共同利用グループ(東京大学・和達大樹特任講師)と共同研究を行うことで実行可能となった.よって,硬X線光電子分光によるYb価数評価の実験を優先的に進める.また,真空紫外~軟X線領域における角度分解光電子分光実験も進めており,昨年度に引き続き高エネルギー加速器研究機構及び東京大学物性研究所での実験に加え,新たに分子科学研究所紫外放射光施設のグループとの連携を開始し,さらに研究スピードを向上させる計画である.
|