昨年度に引き続き,Lotka-Volterra方程式によって近似できる構造化生態系モデルのダイナミクスの研究を行った.昨年度はn個の年齢クラスを持つ被食者とm個の年齢クラスを持つ捕食者から成るn+m次元のLotka-Volterra方程式の研究を行った.この研究によって,nとmが互いに素であるとき,正平衡点の局所安定性および大域安定性はn次元とm次元の2つのLotka-Volterra競争系および2次元のLotka-Volterra捕食者・被食者系の安定性により決定されることが明らかとなった.特に,n次元とm次元のLotka-Volterra競争系がそれぞれ安定であれば,システム全体の安定性は2次元のLotka-Volterra捕食者・被食者系の安定性に帰着される.本年度はこの性質が一般のN種系の構造化生態系モデルにおいても成り立つことを明らかにした.そして,システム全体の安定性がN次元のLotka-Volterra方程式の安定性に帰着するための条件を導いた.この結果により,捕食者・被食者関係だけでなく,競争関係,共生関係を含む構造化生態系モデルの安定性の判別法が得られた.システム全体の安定性がN次元のLotka-Volterra方程式に帰着しない場合には,種内構造を持つ生態系モデル特有の不安定性が生ずることがある. 2種競争系の構造化生態系モデルを解析することにより,異種を媒介することによって生ずる種内競争が,系を不安定化する一つの要因であることが明らかとなった.これまで,昆虫などの大発生のメカニズムを明らかにするために,個体群振動を引き起こすメカニズムが研究されてきた.個体群振動を引き起こすメカニズムは大きく種内相互作用と種間相互作用に分けられるが,本研究の結果は,この2種類の相互作用が絡み合うことによりはじめて引き起こされる個体群振動があることを示している.
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