研究課題/領域番号 |
23840049
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
越後 拓也 独立行政法人物質・材料研究機構, 環境再生材料ユニット, NIMSポスドク研究員 (30614036)
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キーワード | ヘマタイト / アスコルビン酸 / 透過電子顕微鏡 / 反応速度 / ナノジオサイエンス / 動的光散乱 / 比表面積 / 結晶形態 |
研究概要 |
今年度は研究計画の初年度であるため、代表的な酸化鉄鉱物であるヘマタイトとアスコルビン酸の相互作用を研究対象とし、その還元的溶解作用(Reductive Dissolution)の実験的研究を行った。ヘマタイト試料は、粒径および結晶形態の違う2種類を高純度化学試薬を用いて合成し、pH3.3に調整した緩衝液中でアスコルビン酸と反応させ、その溶解速度を比較した。平均粒径7nm、六角板状のヘマタイト粒子は、初期溶解速度が9.11±2.24(10^<-7>mol m^<-2> h^<-1>)、平衡溶解速度が1.94±0.53(10^<-7>mol m^<-2> h^<-1>)であった。これに対し、平均粒径30nm、菱面体状のヘマタイト粒子の初期溶解速度は4.48±1.62(10^<-7>mol m^<-2> h^<-1>)、平衡溶解速度が1.29±0.36(10^<-7>mol m^<-2> h^<-1>)であった。このことから、粒径の小さなヘマタイト粒子は、特に初期溶解速度が大きくなることが判明した。ヘマタイト粒子の溶解挙動を観察するため、反応溶液中から懸濁液を0.2ml取り出し、透過電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、反応初期は極めて分散のよい懸濁液であったものが、反応が進むにつれて粒子の凝集が激しくなり、凝集体内部での液体拡散が抑制され、溶解速度が小さくなることが判明した。一方、平均粒径の大きなヘマタイト粒子は、表面の欠陥や転移といった反応活性の高い場所(Reactive site)から溶解反応が始まり、それらの活性の高いサイトが消費されると、平衡反応に移行していくことが明らかになった。反応が進むにつれ、凝集状態も変化していたが、溶解速度には影響しないことが判明した。これは、粒径が大きいために粒子間も大きくなり、液体の拡散が抑制されなかったためと予想される。このように、バッチ式溶解実験とTEM観察を組み合わせることで、溶液中で起きる微粒子の化学反応に新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は本研究の初年度であったが、計画よりも早く研究は進展しており、2編の査読付き国際学術論文出版および14件の学会発表を行うことができた。さらに現在、3編の論文を国際学術誌に投稿中であり、研究の進展および成果発表に関しては極めて順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、微細な酸化鉄鉱物と有機分子の相互作用を透過電子顕微鏡(TEM)やX線光電子分光法(XPS)などの最先端ナノスケール解析技術を用いて精査することを目的としているが、これらの分析法の多くは高真空中に試料を導入する必要があるため、乾燥した状態しか観察・分析できない。酸化鉄鉱物と有機分子の相互作用は、主に水溶液中で起こるため、これらの手法では現実の化学反応を観察できているとは言えない。対応策として、動的光散乱法(DLS)や走査プローブ顕微鏡(SPM)などの溶液中の鉱物を観察できる手法を併用し、今後の研究を進めていく予定である。
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