今年度は研究計画の第2年度(最終年度)であるため、代表的な酸化鉄鉱物であるヘマタイトとゲーサイトの表面構造とその化学的反応性を研究対象とし、以下のような成果を得た。 (1) 結晶性や結晶形態の異なるゲーサイト(FeOOH)を合成し、その表面ヒドロキシル基密度をX線光電子分光法(XPS)で定量的に比較した。その結果、低温(摂氏4度)で結晶化した低結晶性ゲーサイトは表面ヒドロキシル基密度が6.6 [1/nm2] であり、高温(摂氏70度)で結晶化した高結晶性ゲーサイトは表面ヒドロキシル基密度が7.7 [1/nm2] と変化することが判明した。さらに、ゲーサイトの結晶形態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、個々の結晶のアスペクト比(結晶の長辺と短辺の比)が高いものは表面ヒドロキシル基密度が高いことが判明した。本研究は、XPSによってゲーサイトの表面ヒドロキシル基密度を定量分析した初めての例であり、生成温度や結晶形態によってその密度が変化することを初めて定量的に証明した。 (2) 鉄を含む鉱物が風化・変質して生じる粒径約5nmの非晶質物質フェリハイドライトが粒径約30nmのヘマタイト結晶(Fe2O3)に変化する過程を透過電子顕微鏡(TEM)で詳細に調べた。最新のTEM技術である電子線トモグラフィ法を用いて、世界で初めて粒経30nmのヘマタイト粒子の内部構造を観察することに成功し、結晶内部に直径5nm以下の空孔が多数存在していることを明らかにした。この内部空孔は、前駆物質であるフェリハイドライトが凝集した際の粒間に相当する。また、ヘマタイト粒子に対し、アスコルビン酸(C6H8O6)で溶解実験を行ったところ、これらの空孔から優先的に鉄が溶出することが判明した。以上の結果から、微結晶ヘマタイトの反応活性は、前駆物質の凝集状態に影響を受けていることが明らかになった。
|