研究概要 |
本年度はまず,ホウ素同位体分析の前処理(ホウ素の化学分離)を行うための,実験室整備を行った.具体的には,クリーンルーム内のドラフトにボロンレスフィルターを装備し,ドラフト内に試料分解・乾固およびテフロンバイアル洗浄用の耐酸性ホットプレート2台を設置した.ドラフト内におけるホウ素ブランクのチェックを行った結果,ブランクは十分に低いことが確認された. 熱水試料の分析は,本年度は濃度についてのみ行った.分析の前に,文献調査,既存データの整理,試料の保存状態チェックを綿密に行い,同位体分析に適していると思われる試料を各地点(水曜海山,マリアナトラフ,マヌス海盆,北フィジー海盆,沖縄トラフ)の熱水系から,ベント(噴出孔)ごとに3~5試料ずつ選定した.ホウ素および主要元素濃度(Na,K,Mg,Ca,Sr)については,ICP-AESで,その他の微量元素については,ICP-MSを用いて測定を行った.約20年前に採取された試料のため,経年変質していることも懸念されたが,Mg濃度が以前に測定された値と良く一致したことから,これらの試料はホウ素同位体分析に適していることが確認された.Mg濃度から計算されたホウ素濃度のエンドメンバーは,堆積物のない熱水系においては母岩の組成を反映し,玄武岩では低く(6-10ppm),安山岩では高い(17-19ppm)という結果を得た.厚い堆積物に覆われている沖縄トラフ熱水系のホウ素濃度は非常に高く(40-60pp田),堆積物からのホウ素溶出を示していると考えられる.同様の結果は,アルカリ金属元素であるLi,Rb,Csについても見られた.
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