研究概要 |
本研究では初期地球に頻繁に起きていたことがわかっている天体衝突が地球表層進化に与えた影響を理解することを目標とする。そこで平成23年度は宇宙科学研究所の2段式軽ガス銃を用いた衝突蒸発/気相化学分析技術を確立し、天体衝突によって発生する生成気体の種類,量を計測し,それらを決定づける物理・化学過程を明らかにし、実験室と現象のスケールが何桁も異なる天然衝突を対応づけるスケーリング則を確立することを目指した。最初の標的として地球表層に存在する主要な堆積岩である炭酸塩岩を用い、生成気体の気相化学分析を行った。ガス銃を用いる場合に問題となる化学汚染を防ぐ手法も同時に開発した。その結果、(1)実験チェンバーへの火薬燃焼ガス、加速水素ガスの侵入を防ぐことができていること、(2)炭酸塩岩からの衝突脱ガス気体の大部分はCO2であり、COの混合比は1割程度であること、(3)衝撃圧力の増加に伴ってCO2の生成が増加していくのだが、60GPaを境にして脱ガス効率が急激に上昇すること、(4)CO2の生成量は"Entropy method"と呼ばれる理論の予測値とよく一致することが明らかとなった。この結果は天体衝突で発生する蒸気量は、熱力学的計算によって求まるエントロピー増加量のみで議論できることを意味し、地球史における天体衝突の影響を調べる上で極めて見通しがよくなったと言える。"Entropy method"は天体衝突による蒸発の影響を調べるために70年代から広く用いられてきた手法であるが、本研究ではその理論に初めて実験的な根拠を与えるものである。ここまでの成果は国際誌「Earth and Planetary Science Letters」に投稿中である。
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