研究課題/領域番号 |
23850001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩井 智弘 北海道大学, 大学院・理学研究院, 助教 (30610729)
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キーワード | 不均一系触媒 / リン配位子 / シリカゲル / パラジウム / ロジウム / C-H結合活性化 / ホウ素 / 塩化アリール |
研究概要 |
本研究の目的は、多点固定化法によって担体上に配位子の構造と位置を厳密に規定し、固体表面近傍に高活性な配位不飽和金属錯体種を選択的に生成させ、触媒反応へ応用することである。本年度はまず、新規多点固定化配位子の分子設計を行い、坦持部位となるアルコキシシリル基を有するトリアリールおよびトリアルキルボスフィンの合成を行った。これをシランカップリング法を用いてシリカゲル表面に連結した。固体NMR解析よりリン配位子とシリカゲル間で複数のシロキサン構造の形成を確認し、期待した多点固定化配位子が得られたことが明らかとなった。これら固定化配位子とシクロオクタジエンロジウムクロリドダイマーとの錯形成反応を行ったところ、金属とリンが1:1で反応した化学種のみが選択的に得られることが分かり、触媒反応において高活性な配位不飽和錯体種の効率的な生成が期待できる。配位子の性能評価として、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦クロスカップリング反応に適用したところ、多点固定化坦持触媒は類似の構造を有する均一系触媒よりも高い活性を与えることが分かった。さらに反応性が乏しく利用が困難な塩化アリールを基質に用いても、効率良く反応が進行した。ロジウム触媒によるケトンのヒドロシリル化反応では、多点固定化配位子を用いた場合に著しい反応加速効果が認められた。これら一連の結果は配位子を多点固相坦持することで、金属への過剰配位を抑制し、運動性と配向性が規定された高活性な配位不飽和錯体種が効率良く生成したためと考えられる。本方法論の原理および実用性の確立は、学術面のみならず固体触媒が多用される産業面の観点からも意義深いものであり、更なる一般性の拡張が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、リン原子を金属配位部位とする新規多点固定化配位子の合成とシリカゲル表面への坦持に成功している。固体核磁気共鳴(NMR)測定から複数のシラノール結合を介した坦持を確認し、配向性と運動性を規定した固定化リン配位子を得ることができた。配位子の性能評価について、パラジム触媒による鈴木一宮浦クロスカップリングやロジウム触媒によるケトンのヒドロシリル化反応に適用したところ、対応する均一系触媒よりも高い触媒活性を示すことが明らかとなった。これは固相坦持により高活性な金属/リン=1:1錯体が選択的に形成されたことに起因する結果であり、当初の研究目的を達成したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた新規多点固定化配位子がより効果的に機能する触媒系を探索するとともに、多点坦持による金属錯体の配向性制御と触媒活性との関連性の解明を進める。そのために多様な形式の多点固定化配位子の合成と、反応評価系の確立を行う。固体NMR測定やX線吸収微細構造(XAFS)測定を駆使して、触媒活性種の観測や発現メカニズムに関する情報を得る。これら知見をもとに、配位子の修飾や分子設計の改良を行い、高活性・高選択性を実現する多点固定型坦持触媒へと展開する。また、担体であるシリカゲルを種々検討することで、固体表面環境の触媒活性への影響を調査する。さらに反応後の触媒の分離・回収・再利用を行い、多点固定化配位子による触媒の長寿命化・安定化効果の有無を検討する予定である。
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