ナフタレン骨格を持つ有機カルボジカチオン種は、フッ化物イオンを取り込みフッ素架橋型カチオン種を生成することが知られる。その際、ジカチオン種の酸化力により、フッ化物イオンはフッ素カチオン等価体へと極性転換される。この中間体に対して様々な求核剤を反応させることにより、簡便で一般的な求電子的フッ素化反応を目指した。 まず、このジカチオン種に対して、様々なフッ化物イオン源との反応からフッ素架橋型カチオン種の調製を検討した。このとき、フッ化セシウムをフッ化物イオン源として用いたところ、フッ素架橋型カチオン種が67%生成した。これまでにも、他のフッ化物イオン源を用いて同様のフッ素架橋型カチオン種が生成するという報告があったが、収率は17%と低かったため、今回フッ素カチオン等価体の生成法を大幅に改善した。しかしながら、これとアリール、アルケニル、アルキニル、アルキル金属反応剤との反応を検討したところ、フッ素化された生成物は観測されなかった。ここで、X線結晶構造解析によりフッ素架橋型カチオン種の構造を同定したところ、フッ素原子は2つあるカルボカチオン中心の1つと共有結合している様子が見受けられ、化学的にフッ素カチオン等価体として働くかは疑問である。今後は、このフッ素架橋型カチオン種を用いて、一電子移動反応により誘引されるラジカル反応を利用し、有機化合物のフッ素化反応を検討していきたい。 一方新たに、ジヒドロアントラセン骨格を持つ有機カルボジカチオン種を調製し、フッ化物イオンの極性転換を利用した求電子フッ素化を目指した。この際、様々なフッ化物イオンを用いて、含フッ素カチオン中間体の調製を検討したが、その生成は確認できなかった。しかしながら、この新しいジカチオン種は強力な酸化力を持つことがわかり、ナフトールの酸化的自己カップリング反応を効率的に促進することを見出した。
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