研究概要 |
平成23年度前半は本研究の最終目標である水素のみを副生成物とする触媒的炭素-炭素結合生成反応の開発を、これまでの研究で用いられてきた一価のイリジウム触媒とホスフィン-アミン配位子を用いて行った。その結果、ボスフィン-アミン配位子の存在下では想定反応機構の最初のステップである基質の炭素-水素結合活性化反応が進行しないということが分かった。そこで平成23年度後半はホスフィン配位子を用いない高活性な炭素-水素結合活性化触媒を開発することを目的として、これまでに報告例の少ないフェロセン誘導体の炭素-水素結合活性化反応の開発に取り組んだ。まず、ホスフィン配位子の代替としてシクロペンタジエニル配位子(Cp*)を用いた触媒系の探索を行った所、三価のカチオン性ロジウム触媒である[RhCp*(OAc)2(H20)]がイミノ基を配向性置換基として持つフェロセン誘導体の炭素-水素結合を活性化し、イソシアネートとの反応によって高収率で1,2-二置換フェロセン誘導体を与えることを発見した。この反応は酸化的付加を伴わない、求電子置換反応による炭素-水素結合活性化反応であると考えられる。一方で、ホスフィン配位子の代替としてジエン配位子を用いた触媒系の探索を行った所、一価のカチオン性イリジウム触媒である[Ir(cod)2]BARFがピリジル基を配向性置換基として持つフェロセン誘導体の炭素-水素結合の活性化し、アルケンやアルキンとの反応によって1,2,5三置換フェロセン誘導体を与えることを見出した。また、この反応の反応機構解析を低温NMRを用いて行ったところ、予想される基質のイリジウムへの配位に続く基質の酸化的付加によるイリジウムヒドリド種の観察に成功した。さらに、このヒドリド種がアクリル酸エチルと反応し触媒反応で観察されたものと同じ生成物を与えることも確認できた。これら二つの反応はポスフィン配位子を用いる必要がないため、アミン配位子の存在下でも炭素-水素結合活性化反応を進行させる可能性があり、今後の研究において利用する。
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