研究課題/領域番号 |
23850020
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦田 千尋 独立行政法人産業技術総合研究所, サステナブルマテリアル研究部門, 研究員 (40612180)
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キーワード | 層状化合物 / 有機-無機ハイブリッド / 防錆 / 腐食防止 / はっ水 / はつ油 |
研究概要 |
本年度は、平滑基板上へ同心球構造の類縁構造である層状構造を有する有機無機ハイブリッドを作製し、層状構造の閉じた空間空隙材料としての特性(閉じ込め効果)を調査した。具体的には、アルキルシランとテトラアルコキシシランを僅かの酸を含むエタノール溶液中で加水分解・縮重合させた後に、防錆剤を添加し、銅板上へスピンコートし、ハイブリッド膜(層状膜)を得た。比較として、防錆剤を含有した層状構造を持たないアモルファスな膜(アモルファス膜)も作製した。閉じた空間空隙材料としての評価は、層状膜およびアモルファス膜それぞれを、塩水噴霧に暴露し、その防錆効果を調査した。アモルファス膜の場合、塩水噴霧試験後24時間以内に発錆が確認されが、層状膜の場合は、2000時間以上の塩水試験後も発錆しないことが明らかとなった。アモルファス膜の場合には、防錆剤分子が膜内部を自由に移動できることから、塩水噴霧によって膜外へ徐々に漏出したため、24時間以内に発錆したと考えられる。一方で、層状膜の場合は、層状構造が防錆剤分子の膜内部での移動を阻害したため、塩水噴霧環境下でも防錆剤が漏出せず、長時間防錆効果を発現したと考えられる。これより、層状構造が閉じた空間空隙材料として機能することを確認した。 さらに本年度は、本層状膜が優れたはっ水性およびはつ油性を示すことを発見した。一般に、はつ油表面を得るためには、高コスト・高環境負荷の有機フッ素化合物の使用が不可欠とされている。有機フッ素化合物を必要としない本層状膜は、低コスト・低環境負荷型はつ油コーティングとして利用が期待できる。また、数社の報道機関より本内容に関する報道がなされ、科学技術の実社会への普及にも貢献したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、層状構造体をモデル物質として用い、閉じた空間空隙材料としての特性を明らかにしており、予定通りに研究が進捗していると判断できる。さらに、層状構造体がはつ油性を示すことを見いだしており、予想以上の成果を得たと判断できる。以上の理由により、本年度は当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1、実際に、防錆剤等のゲスト分子を含有した同心球構造を有するハイブリッドナノ粒子を作製し、ゲスト分子の放出挙動ならびに防腐食特性等を評価する。 2、はつ油性が適用できる液体の範囲や熱耐性等の挙動を詳細に調査し、本層状膜がはつ油性を発現した理由を解明する。
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