近年、生命科学分野の細胞膜構造や膜タンパク質研究に人工細胞モデルとして積極的に取り入れられるようになった。従来の細胞サイズ(10-30 µm)のリポソーム(巨大リポソーム)作製法は、クロロホルムに溶解したリン脂質をアルゴン気流下で乾燥させ、蒸留水等を加え、自己組織的にリポソームを形成させる方法である。自己組織的にリポソームを形成させるため、サイズが揃わなかった。また、生理的な溶液条件ではリポソーム生成効率が高くない。リポソームの品質如何で実験結果が揺らいでしまい膜タンパク質の素反応を観察することが困難である。 昨年度はジェット水流をリン脂質平面膜に印加し、安定な細胞サイズリポソームの作製に成功した。 今年度は細胞膜模倣リポソーム作製を試みた。細胞膜はリン脂質種が内膜と外膜で異なっており、このリン脂質非対称性が様々な生体反応に重要な役割を果たしている。特に、ホスファチジルセリン(PS)はアポトーシス時に内膜から外膜へ移行し、マクロファージによる貪食除去される際の標的分子である。そこで、PS非対称リポソーム作製を試みた。非対称リン脂質2分子膜を作製し、その膜にジェット水流を印加した。PSと特異的に結合するAnnexinVを非対称リポソームの外側に加え、非対称性を評価した。PSが外側に存在しているリポソームのみにAnnexinV由来の蛍光が観察され、非対称膜リポソーム作製に成功した。さらに、この非対称膜リポソームを用い、膜運動やペプチド相互作用の観察にも成功している。
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