研究概要 |
現在,理工学の様々な分野において行列に関する数値計算は広く応用されている.その中で特異値計算は,現代工学において最小二乗法や画像処理,データマイニングなどに応用される重要な技術であり,その数値計算法の確立は科学技術計算において大きな意義をもつ. 現在,特異値計算法としては,1994年にFernandoとParlettが提案したdqds(differential quotient difference with shifts)法が有力視され,線形計算ライブラリLAPACKにも実装されている,90年代後半からDhillonとParlettは,基本アルゴリズムとしてdqds法を用いた特異値分解のためのMRRRアルゴリズムを開発し,彼らはこの業績により,3年に1度SIAMが優れた線形計算に関する研究成果をあげた者に与えるSIAG/LAPrizeを2006年度に受賞している. このようにdqds法は注目されているアルゴリズムだが,数年前まで,理論面に関する多くの課題が残されていた.まずdqds法の収束に対する理論的な保証はなく,収束速度は反復中のシフトに依存するが,ラフな議論で2次収束となることが示されているのみで厳密な理論評価はなかった.これに対し申請者は,2006年頃よりdqds法の理論解析を始め,厳密な収束証明を与え,2次の収束速度を達成するシフトを提案している. dqds法を高速化するにはシフト戦略の改良が1つ挙げられるが,もう1つの要素として,デフレーション戦略が挙げられる.最近,固有値計算のためのQR法はアグレッシブデフレーションと呼ばれる技術により高速化されている.本年度は,QR法を改良したアルゴリズムの提案とその理論解析を行い,その成果はJournal of Computational and Applied Mathematicsに掲載されている.またdqds法にアグレッシブデフレーションを導入し高速化した.この成果はSIAM Journal on Matrix Analysis and Applicationsに掲載されている.
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