本研究の目的は,繰返し荷重を受けるコンクリート構造物について,ひび割れ間に介在する水が,構造物の変形性能,疲労寿命に与える影響を定量的に明らかにすることである.コンクリート構造物特有の事象であるひび割れの開閉に着目し,媒質として存在する水がひび割れ発生時(開口時)は負圧によってひび割れ間に引き込まれ,ひび割れ閉合時にはひび割れの閉合を妨げる効果を明らかにすることに,本研究の眼目がある.粘弾性体である水の物理的性質と,多孔質体でわずかながら透水性をもつコンクリートの材料特性を鑑みて,繰返し荷重の載荷速度と水が構造性能に与える影響との関係を定量的に分析し,水中構造物の非線形有限要素解析に用いる数値モデルを提案することを目指した. 本研究には,以下の3つの段階がある.1.載荷速度とひび割れ間の水の抵抗性を定量的に調べる基礎的実験(H23),2.水の抵抗性をコンクリートの非線形有限要素解析に導入するためのモデル化検討(H23~H24),3.実大構造物を用いた疲労実験によるモデルの検証(H24).しかしながら平成24年度に別の研究課題が採択され重複防止規定により本課題を辞退せざるを得なくなったため,完了したのは第1段階までであった. 第一段階の研究では,意図的にひび割れを生じさせたコンクリート試験体を水を満たした容器の中に入れ,載荷速度,波形をパラメータとした多数の載荷を行い,ひび割れ開閉時に発生するひびわれ付近の圧力変動を水中マイクにより測定した.その結果,ひび割れ閉合時の圧力上昇はほぼ予測通り補足できたが,ひび割れ開口時に予測していた負圧の発生およびそれに伴うキャビテーション現象の兆候は,本実験の条件下では捉えることができなかった.今後,実験手法と計測装置の変更を続ける所存である.本実験と取得データの分析内容は国際会議にて公表している.
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