本研究は、植民地の社会政治的状況と地理空間の関係に着目し、差別や不平等を伴いつつ編成された金瓜石鉱山の土地の利用と所有、および鉱山施設の建築的実態を考察し、植民地における鉱山景観の特質を明らかにすることを目的としたものである。特に本研究では、日本統治期に作成された地籍図や土地登記簿によって当時の土地利用と所有の状態を復原する一方で、図面類、文献資料、古写真などを用い、金瓜石鉱山に建設された鉱山施設の配置や建築的特徴を考察した。本年度は以下の二点につき研究を進め成果を得た。 (1)金瓜石鉱山における鉱山施設の配置に関する復原的考察: 日本統治期の金瓜石鉱山には、鉱石を採掘する坑道・選鉱施設・製錬施設など鉱山事業の中心となる施設のほか、鉱山事務所や煉瓦工場など鉱業事業に付随する施設、病院・酒保・劇場などの福利施設、飯場や合宿所を含む住居施設が備わっていた。これらの施設は、鉱山事業の合理的運営や台湾人生活地域を考慮して配置されていた。特に、比較的平坦な場所を鉱山施設および日本人居住地区とする一方で、台湾人生活地域を急峻な場所に限定することで、植民地特有の空間構成が生み出されていたことが判明した。 (2)金瓜石鉱山において形成された町並みの実測および聞き取り調査: 日本統治期の金瓜石鉱山は、大きく金瓜石地区と水南洞地区にわかれ、各々に日本人生活地域と台湾人生活地域が形成されていた。本年度は、両地域において実測調査と聞き取り調査を実施し、各集落の構成原理を分析した。その結果、鉱山会社によって建設された日本人居住区内の住宅が日照や地形に関係なく平行に配列されていたのに対して、台湾人居住地域の住宅が一見無計画に地形に沿って配置されると同時に、良好な飲料水を得るために川筋を中心に建設されていることが判明した。
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