研究概要 |
本課題の目的は、集積回路の高性能化に重要な歪(ひずみ)技術を効果的に半導体素子に適用するために、極微細トランジスタのチャネル領域に導入された歪を、素子サイズの空間分解能で正確に測定する技術を確立することである。本課題を達成するために、原子間力顕微鏡(AFM)とラマン分光法を組み合わせることにより、高い空間分解能が得られるAFMラマンを試みた。 Au, およびAgを堆積したAFM探針について歪Siピークの増強が確認された。得られたスペクトルを解析した結果、測定試料である歪Si基板の信号に、AFM Si探針からの信号が重畳していることが分かった。測定試料を歪SiGe基板に変更することにより、Si探針のラマン信号に阻害されることなく、歪SiGe層からのラマン信号の増強を得ることができた。 AFMラマンにおいて最も大きな課題の一つとして、近接場の信号が遠方場の信号(バックグラウンド)に阻害される場合がある。本課題を解決するために、ラマン信号の偏光特性を利用してバックグラウンドを最小にする測定配置を検討した。種々の測定配置で得られた結果と、近接場増強モデル (Ossikovski et al., 2007)を用いて計算した結果を比較検討した結果、[110]の方向から視射角30度で入射した場合、入射、および散乱電場がp, およびp偏光のとき遠方場信号に対する近接場信号の比率が約5倍となり、s, およびp偏光のとき、約20倍となった。本結果より、増幅率として6.1E+5が得られ、これまでの報告値より一桁程度大きい。AFMにおいて、通常用いられるタッピングモードの代わりにシェアフォースモードを採用したことにより、探針が試料に対して極めて近接したことに因ると考えられる。 本課題である空間分解能10 nmを持つ正確な歪測定の準備が整ったと思われ、今後、AFMラマンによる歪分布測定に移行する。
|