研究概要 |
本研究は,寸法がミクロン~サブミクロンオーダーの超微小構造体(以下,マイクロ要素)の界面端はく離破壊発生強度に対する環境の影響を実験的に明らかにするという,極めて困難な課題の達成を目的としてスタートした.マイクロ要素は「つかむ」こと自体が困難であるため,特殊な負荷方法を採用する必要がある一方,試験片周囲の環境を精密に制御しつつ,微小な破壊荷重の検出を同時に成功させなければならない. このような背景の下,筆者は,(1)界面を含むマイクロ要素試験片の作製,(2)界面はく離試験,(3)環境制御,の三要素について独自の手法の適用を試みた.(1)については,薄膜を多層堆積した材料からFIB(集束イオンビーム装置)を用いて界面端を持つ微小な片持ち梁(カンチレバー)試験片を切り出した.(2)については,微小負荷装置を備えた特殊な透過型電子顕微鏡(TEM)用の試料ホルダー(ナノインデントホルダー)に試験片を取り付け,TEM中において高倍率でその場観察しながら,曲げ負荷によりはく離き裂を発生させた.(3)については,TEM鏡筒内の試料周りに局所ガス雰囲気を作る機構(環境セル)を備えた世界唯一の反応科学超高圧電子顕微鏡(RSHVEM)を初めて援用した.これらを統合した力学実験には前例が無く,その遂行過程において様々な技術的問題が明らかとなった.本研究では,これまでにこれらの解決を図り,脆化種である水素を含むガス(N2/H2混合ガス)中において,マイクロ要素界面の定量的な破壊試験およびその場観察を初めて成功させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた要素技術の評価・蓄積をほぼ計画通りに遂行し,ガス中での実験にも成功した.また,FEM(有限要素法)による界面端近傍の局所応力場の評価にも着手しており,H24年度には成果発表の実施も予定していることから,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ,試料ホルダーの予期せぬ故障などのトラブルが頻発しており,試験の成功確率が極めて低い.本研究においては,継続的に試験を実施し,成功例を増やして信頼のおける実験・解析データを蓄積する地道な努力が最も重要である.
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