本研究の目的は、建物側からの熱的影響や気象条件によって異なる屋根積雪性状を予測することが可能な数値モデルを開発することである。平成24年度の実績は、以下の通りである。 気象分野で検討されてきた積雪多層熱収支モデルと建築分野で検討されてきた屋根融雪モデルを統合し、フラットな屋根における屋根積雪性状を予測可能な数値モデル(屋根積雪多層熱収支モデル)のプロトタイプを開発した。 計算結果の妥当性の検証のため、前年度に北海道旭川市にある北方建築総合研究所の敷地内で実測調査を行った実験建物を対象に計算を行った。屋根上積雪深は厳冬期である1月下旬くらいから計算値と実測値が比較的よく一致する結果となった。また、3月下旬に屋根雪が消失する時期も概ね再現できた。しかしながら、降雪が始まる11月中旬から1月中旬までの時期では、計算値と実測値があまり一致しない結果となった。この理由として、実際の観測では降雨であったのにも係らず、雨・雪判別式で計算すると降雪と判断されてしまうケースがあり、観測された降雪量よりも数値計算では降雪量を多く計算してしまったこと、また地上降雪量と同じ量が屋根上にも積もるという仮定で計算したために、屋根上積雪量が大きくなってしまったことなどが原因であると考える。また、屋根上積雪重量は実測値よりも計算値は小さく両者の誤差が大きい傾向を示した。この理由として、積雪内部の水分移動を最大含水率から算出し重力方向のみ起こると簡略化し、屋根面と接する最下層でも同様の扱いとしたため、屋根面付近で形成される氷板、高含水率状態の積雪層、毛管力による上向きの水分移動が再現できていないためであると考える。 今後は、屋根雪内で起きているこれらの水分移動を再現できる新たなモデルを開発し数値モデルの精緻化を図るほか、勾配屋根においても計算可能な数値モデルに改良する予定である。
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