本年度の研究は、巻き上がる際の、懸濁物のソースである底泥中に存在するリンの化合物形態について核磁気共鳴装置(31P-NMR)を用いて計測を行ったものである。この観測は月一度実施される霞ヶ浦全域調査において実施された。本研究では霞ヶ浦の湖心において、底泥柱状コアを13ヵ月間にわたって採取し、層ごとに切り分けたサンプルについて分析を行った。この観測に追加して、霞ヶ浦周辺において、週に一度~二週に一度程度の表層水のサンプリングを行い、風による巻き上がりの確認を行った。 31P-NMRを用いて分析を行うことにより、オルトリン酸、モノエステル結合態、ジエステル結合態、ピロリン酸の分析を行うことができる。霞ヶ浦湖心で観測を行った結果、底泥中に含まれるリンの約70%~80%程度は、鉄・アルミニウムなどと結合しているオルトリン酸であった。モノエステル結合態リン、ジエステル結合態リン、ピロリン酸などについては、全体の約20~30%程度と、オルトリン酸と比較して低濃度であった。底泥柱状コア中のリン濃度は13ヵ月間の観測で大きく変動を示し、底泥中でも極めてドラスティックに濃度の変動が起こっているということが明らかになった。この変動は、底泥間隙水中のリンとも有意な相関を示していた。 霞ヶ浦周辺における観測を行った結果、風は霞ヶ浦においては明瞭な日変動を示していた。特に15時~18時において毎時6m以上の強風が吹く傾向が見られた。霞ヶ浦周辺における表層水を採取したところ、懸濁粒子量については、風速との有意な相関が見られ、また懸濁物中に含まれる無機物の量に関しても有意な正の相関がみられることから底泥の巻き上がりが行われているということが明らかになった。これらの結果は、底泥と水中とのダイナミクスが湖沼内部のリンの動態に大きく影響を与えているということを示すものである。
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