研究課題/領域番号 |
23860070
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
南谷 英美 独立行政法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 基礎科学特別研究員 (00457003)
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キーワード | SU(4)近藤効果 / 鉄フタロシアニン / 数値くりこみ群 / 第一原理電子状態計算 |
研究概要 |
分子磁性体のデバイス応用に向けて、固体表面との相互作用が分子のスピン状態に与える影響を解明することを目指し、第一原理電子状態計算手法と場の量子論を用いたモデル計算を組み合わせて理論的研究を行った。本年はAu(111)表面上の鉄フタロシアニン(FePc)分子における近藤効果のメカニズムについて研究を行った。この系では、FePcの吸着サイトがオントップサイトかブリッジサイトかによって、走査トンネル分光(STS)スペクトルに表れる近藤1重項由来のピーク形状(近藤共鳴ピーク)が大きく異なる。第一原理電子状態計算の結果から、この近藤共鳴状態のサイト依存性は、ontopサイトとbridgeサイトにおける吸着構造の違いから生じる、配位子場対称性の違いを反映していることが判明した。特に、特にontopサイトでは配位子場の4回対称性から、SU(4)近藤効果と呼ばれる、珍しいタイプの近藤効果が実現している可能性があることが明らかになった。そこで、SU(4)近藤効果の存在を確認するために、場の量子論的な手法を用いた解析を行った。第一原理電子状態計算から得られた局所状態密度の結果を基に、近藤効果に主に寄与するFe d軌道がd_<zx>・d_<yz>軌道であることを同定し、FePc/Au(111)で現れる近藤効果を記述する2軌道アンダーソンモデル型のモデルハミルトニアンを構築した。孤立分子での局所状態密度と比較することによって、モデルハミルトニアン中の各d軌道とAu表面の混成強度・クーロン相互作用等のパラメータを第一原理電子状態計算結果から見積もった。このモデルハミルトニアンに対して数値くりこみ群法を用いることによって、STSスペクトルに対応する磁場下での1粒子励起スペクトルを計算した。その結果、SU(4)近藤効果が存在するオントップ吸着分子の場合、磁場下でのSTSスペクトル形状は磁場方向に強く依存することが判明した。この結果は実験と良い一致を見せており、配位子場を通じて分子磁性を変化させうることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目標としていた、第一原理電子状態計算と場の量子論を組み合わせることによって、分子磁性体におけるエキゾティックな近藤効果の可能性とそのメカニズムを明らかにすることが出来た。また、実験グループとの連携によって、具体的な対象に対して、理論的手法から得られた結果の検証を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
FePc/Au(111)では、CO・NO等の2原子分子をFeに吸着させることが可能である。さらに、吸着したCO・NOは走査トンネル顕微鏡探針からパルス電流を流すことによって脱離させることも可能である。また2原子分子の吸着に伴い、近藤共鳴ピークが大きく変化することが報告されている。SU(4)近藤効果いう、特殊な近藤効果が起きている状態に対して2原子分子吸着がどのような影響を与えるのかについては、理論的研究がなされていない。またNOの場合には、吸着分子にもスピンが存在するため、吸着分子スピンとFeスピン間の相互作用が生じることが期待され、非常に興味深い系である。そこで、来年度は、2原子分子吸着の効果を主たる研究テーマとして、分子磁性と化学修飾の影響について、実験チームと共同して研究を推進する。
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