研究概要 |
光はその波長成分(色)によって夜間における人間の覚醒度に与える影響が異なる.これまで,緑色光や暗闇と比較して青色光への暴露が覚醒度を向上させることが明らかにされている.一方,夜間以外の時間帯における光の波長成分による覚醒作用特性や作用メカニズムについては不明な点が多い.日中における覚醒作用量および認知課題処理に対する光の波長特性は,光の覚醒作用を日中での作業における効率の向上や事故の防止に利用する際に有用な知見となり得る. 本研究では,早朝における青色と赤色光暴露時の脳波の計測を行った.後頭部付近で計測した脳波のアルファ波成分は,暗闇条件と比較して青色光と赤色光暴露後約30分後から小さくなった.大脳活動の低周波成分(シーター波,アルファ波)の強度は主観的眠気と正の相関を持つと考えられることから,本結果は早朝における青色光と赤色光への暴露によって眠たさが抑制されたことを示唆している.これは,夜間以外の時間帯である早朝においても青色光と赤色光には覚醒作用がある可能性を示している. さらに,日中において,波長成分の異なる光を暴露したときに,認知課題に対する反応時間と脳波およびセッション中の主観的眠気を計測した.認知課題として聴覚オドボール課題を用いた.出現頻度の異なる2種類の音を呈示し,被験者には低頻度の音刺激に対してボタン押しを求めた.主観的眠気と反応時間は,実験時間の経過とともに増加する傾向が見られたが,光の波長による違いは見られなかった.脳波は低頻度刺激呈示後約300msに観察される大脳活動のピーク(P300)について解析を行った.その結果,暗闇条件と比較して,青色光に暴露中ではP300の相対振幅が経過時間とともに大きくなる傾向が見られた.被験者を増やして実験を行うとともに,脳波のさらに詳細な解析を行う.
|