研究課題/領域番号 |
23860076
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
安養寺 正之 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 研究員 (70611680)
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キーワード | 火星探査 / 火星探査航空機 / 低レイノルズ数 / 風洞実験 / 空力計測 |
研究概要 |
火星探査航空機は,地球の約1/100と非常に希薄な火星大気中を飛行する.本年度はまず火星大気飛行状態を実験的に模擬するための「惑星環境風洞」と呼ばれる低密度風洞の整備を進め,計測システムの構築,作動特性および測定部気流の質の評価を行った.通常では使用されることのない気流領域であるため,初動試験では低速領域での速度変動が大きく,気流が不安定になることが問題となっていた.そのため一部の改修作業を必要としたが,駆動部のギア調整等を実施することで,低圧環境でも気流変動の小さい安定した流れを実現することができた.また代表長さを50 mmとした場合,レイノルズ数オーダーで1,000~100,000と幅広いレイノルズ数効果の評価が可能となった.さらに測定部内の流速分布を評価することで,実験の精度確保及び模型寸法の決定に必要な測定部内での一様流領域を明らかにした.低レイノルズ数領域では測定部壁面から発達する境界層の影響が大きくなるため,低圧になるほど一様流領域が小さくなる傾向を示したものの,火星飛行機の全機模型でも設置可能な一様流領域は最低でも確保されていることが分かった.これらの気流検定結果をもとに,一様流領域に収まる模型サイズが決定され,次年度の本格試験に向けて現在,模型の設計を進めている. 次にこの惑星環境風洞で空力計測を行う上で重要となるのが微小空力計測技術である.火星のような低圧環境では気流動圧が低く,翼模型に負荷する空力荷重は小さいところでわずか数グラムしかない.そのため天秤を用いた計測では,その精度向上が課題である.そこで微小力荷重による天秤較正試験を実施した結果,通常の大気圧環境下では大きく影響することのない各成分の干渉係数の補正が鍵であることが分かった.これらの較正試験結果をもとに,これまで困難であった低圧環境下での微小力計測技術を確立しつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い,実験計測に不可欠な惑星環境風洞の計測システム構築及び気流検定試験はほぼ終え,計測技術の導入及び模型製作に取り掛かっている.空力計測技術においては,通常,大気圧環境で使用されている計測装置及び計測手法を低密度風洞に直接導入するだけでは計測しきれない問題点が明らかとなり,その検証にやや時間を要した.ただし,現在では問題点と解決策もクリアになっているため,次年度はこれらの成果をもとに風洞計測を本格実施が可能となっている.
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今後の研究の推進方策 |
風洞設備の老朽化が激しく,特に真空ポンプの不調がしばしば見られ,試験効率が非常に悪い.そのため現在,設備担当者と交渉し,真空ポンプの更新を計画中である.ポンプ更新に伴い,若干の試験の遅れが見込まれるが,その後の試験時間の大幅な短縮など実験の効率化が期待される.また次年度は感圧塗料を用いた模型表面の圧力分布計測を計画していたが,通風気流中に含まれるオイルミストが感圧塗料の感度変化を引き起こし,計測が困難であることが分かった.駆動部の潤滑オイルのリークが原因であるが,対策を施すには大幅なコストがかかる.このため,可視化計測手法を変更し,近年Tianshu Liuらによって開発された「蛍光油膜法」を適用していく.気流中のオイルも影響することのない本手法により,模型表面の流線を明らかにすることで,詳細な流れ場構造を解明していく.
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