研究課題/領域番号 |
23870006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 昭彦 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任研究院 (90612119)
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キーワード | 走化性 / 集団的細胞移動 / cAMP振動 |
研究概要 |
外敵を除外する役割をもつ免疫細胞やえさを求めて環境中を探索する場合など、細胞は環境中のシグナルを読み取って移動方向を決めている。運動性をもつ細胞はみなこのような走化性応答を示すが、多くが単独で移動するのみならず、例えば発生過程やがん細胞の浸潤など、複数の細胞で群れをつくって移動することが多い。複数の細胞が集まることで創発される振る舞いや集団による情報処理によって得られる利点があると思われるが、系が多細胞であるために解析がしづらいことが多い。本研究では、再現性の高い環境条件での実験と定量的な解析が可能である粘菌細胞を用いて、走化性応答における集団的な細胞移動のメカニズムや機能的意義を明らかにする。 粘菌細胞は誘因物質であるcyclic AMP(cAMP)勾配を検知して移動する。環境のcAMPに細胞が応答すると新たにcAMPを産生することによって、時間空間的に振動するcAMPの進行波が形成されて伝播していく。cAWPに対する細胞の応答を生細胞観察によって調べてみると、cAMP波の振動周期によって細胞運動の効率が大きく変化することを見いだした。適切な時間スケールでの振動進行波のもとでの細胞の運動は弾道的な振る舞いを示す一方、そのような時間スケールから外れた刺激に対しては刺激方向への運動と逆方向への運動を繰り返す比較的乱雑な運動を行うことが明らかになった。また、cAMP環境の検出と応答が、単独で細胞移動する場合と集団的な細胞移動を行う場合でどのように変化するのかを理解するため、微小流路を用いて、動的に変動するcAMP刺激を与える計測系を構築することに成功した。今後はこの構築した計測系を用いて、単独また集団で細胞移動を行う際に行われる細胞の情報処理について明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集団運動を理解するために、本年度はcAMP刺激を動的に制御する計測系の構築に成功した。また、集団運動の様子を観察したところ、cAMP振動の周期依存的な細胞運動特性をとらえることに成功した。これらの結果から、本研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、細胞移動の計測系の開発を進める。また、細胞接着領域を制御したチャンバを作製する。1次元的な領域や、数細胞のみ入れる程度のパッチ状微小領域に細胞を置くことで、細胞間相互作用や細胞移動の方向をコントロールする。前年度に構築した微小流体デバイス計測系を利用して集団的細胞移動とcAMP応答の関係を明らかにする。今年度に作成予定である計測系が確立しだい、そちらも順次利用して実験を進める。集団移動している場合と単独で移動している場合について、細胞移動の振る舞いを比較する。細胞の移動速度や方向転換頻度、仮足形成頻度等を定量化し、分子動態の解析と合わせて、集団形成がどのようにして勾配検出や細胞移動に影響を与えているのか、引き続き解析を進める。
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