研究概要 |
前年度に引き続き血縁淘汰理論の一般論の整備を行った。あるゲームの利得行列に対して、そのゲームがWrightの島モデル上でプレイされた時に、どこまで高次の血縁度R_nが進化動学に影響を与えるかを探った。その結果、利得行列に対してその非線形性の度合いによって自然に次数Lが定義できること、また次数Lのゲームが行われた場合はn=L+1次の血縁度R_nが進化動学に関わってくることが分かった。これはL=2の際にn=3次までの血縁度が重要であることを示した自身の先行研究 (Ohtsuki 2010, Evolution)の拡張である。また、この結果の応用として、適応度の実測値が与えられた時に、どの次数の血縁度の影響が支配的かを予測する「血縁度スペクトル分解」の手法を構築した。 クオラムセンシングにおけるオートインデューサー濃度に対する閾値的反応の起源を理解するため、二遺伝子座二対立遺伝子モデルを分析した。その結果、オートインデューサー生産遺伝子と、クオラムセンシングによる有用物質生産遺伝子の間に強い遺伝的連鎖が存在する場合には、閾値的反応をするクオラムセンシングは進化し得ることが分かった。しかし二遺伝子座間に連鎖がない場合には、まず有用物質生産をしないchater型が侵入し、ついでコストのかかるオートインデューサー生産をしないcheater型が侵入してしまい、クオラムセンシングが進化しないことが分かった。さらにクオラムセンシングにおけるオートインデューサー濃度の閾値は、より高い値に進化していくことがコンピュータシミュレーションから示唆された。
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