研究課題/領域番号 |
23870011
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
布目 三夫 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 研究員 (40609715)
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キーワード | 哺乳類 / ニホンノウサギ / 系統地理学 / 遺伝的多様性 / 季節変化 / 適応進化 / 自然選択 / 種分化 |
研究概要 |
【研究の成果の概要】 ニホンノウサギのTshb遺伝子の、プロモーター領域(約800bp)、イントロン1~エキソン3領域(合計約2500bp)の遺伝的多様性の地域差を解析した。その結果、プロモーター領域、およびエキソン2~3領域において、北方(東北~北陸)ほど他地域よりも低い遺伝的多様性を示した。しかし、イントロン1領域では地域差は見られなかった。 Tshb遺伝子は分子系統学的解析に有効な中立マーカーとして用いられている一方で、近年では季節性繁殖の制御に関わる遺伝子として注目されている。ニホンノウサギは南北の集団で季節性に地域差を示す動物であり、本遺伝子において、南北で異なる自然選択圧がかかっていると推定される。本年度は本州・四国・九州から採集したニホンノウサギ、約90サンプルのTshb遺伝子を解析した。 解析の結果、プロモーター領域およびエキソン領域において北方集団ほど低い遺伝的多様性を示す傾向が得られた。しかしながら、解析したエキソン領域には非同義置換は見られなかった。次年度はレポーターアッセイによるプロモーター活性の測定と、未解析のエクソン3領域を調べ、Tshb遺伝子の地理的変異と機能的差異を調べる。また、Tshbの周辺領域に存在する遺伝子座を解析し、Tshbにおける多様性の南北差が自然選択の影響か、ゲノム全体の傾向か否かを検討する。 ニホンノウサギは分布域の北部と南部で毛色や繁殖活動の季節性が異なる。南北に長く伸び、生息環境の季節変化に顕著な地域差をもつ日本列島で、本種がどの程度の遺伝的差異をもってそれらの環境に適応しているのかを調べることで、野生哺乳類の適応進化と種分化について新しい知見が得られると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、23年度ではTshb遺伝子のDNA配列の解析をほぼ終え、おおむね計画した範囲で進められている。
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今後の研究の推進方策 |
問題点(1)DNAサンプルの質:糞より抽出したDNAサンプルの中にはPCRによる増幅が不安定なものがあった。 23年度の解析で選抜した、安定して増幅がみられるサンプルを中心に解析を進める。 問題点(2)プライマーの有効性:プライマーは同科別属カイウサギのゲノム情報から作成しており、ニホンノウサギには有効でないものもあった。今後は、エキソン領域や他の哺乳類において保存性の高い領域を中心にプライマーを設計する。 問題点(3)サンプルの不足:東北から北陸にかけて、サンプルが十分でない地域があるため、そのような地点からサンプルを収集する。
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