Tshb遺伝子は分子系統学的解析に有効な中立マーカーとして用いられている一方で、近年では季節性繁殖の制御に関わる遺伝子として注目されている。ニホンノウサギは南北の集団で季節性に違いがられる動物であり、本遺伝子の保存性が南北で異なる可能性が考えられた。昨年度はニホンノウサギTshb遺伝子の、プロモーター領域(約800 bp)、イントロン1~エキソン3領域(約2500 bp)の遺伝的多様性の地域差を解析した。その結果、プロモーター領域、およびエキソン2~3領域において、北方(東北~北陸)ほど他地域よりも低い遺伝的多様性がみられた。 本年度は、ルシフェラーゼアッセイによるプロモーター領域の活性解析を行った。活性レベルの低いアリルはプロモーター領域の下流に変異をもつ傾向が見られたが、活性レベルの地域差は特にみられなかった。また北部集団で低い多様性を示したエキソン2~3の領域について、ユキウサギ、カンコクノウサギ、およびデータベースより取得した他のノウサギの同領域を解析した。その結果、特にエキソン3の領域がノウサギ全体で高く保存されていることが明らかとなった。ニホンノウサギのTshbにみられた北方での低い遺伝的多様性が、周辺のゲノム領域にも見られるのか否かを調べるため、Tshbの近傍に存在する4つの遺伝子Atpa1、Casq2、Sycp1、Csde1の地理的変異を調べた。しかしながら、4つの遺伝子の遺伝的多様性に一貫した地域差はみられなかった。 研究の結果、ニホンノウサギのTshbにおいてプロモーター領域を含む一部の領域で、DNA配列が高く保存されており、特に北方集団で顕著であった。しかしそれは、地域集団レベルでの保存性ではなく、ノウサギ全体においてTshbが高く保存されている結果である可能性が示唆された。
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